TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜
□心の傷に染みる雨
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「犬の世話係は気楽でいいな」
「……何?」
開口一番。フレンは疲れたような口調で発した。
しかしその言葉は、今のユーリにとって傷口に塩を塗るものだった。
「お前こそ気楽でいいよな。式典でちゃんと前習えはできたのか?」
「どいてくれ。僕は暇じゃないんだ」
苛立った足踏みでユーリがフレンに向かって言えば、彼はユーリを軽く突き飛ばして馬小屋を出ていこうとした。彼に構うことが億劫だというように、これまた苛立った口調で言いながら。
「親父が騎士団員だと贔屓してもらえていいよな!」
それは、父親の話題を避けたがっていたフレンに対しての禁句。ユーリは敢えてそれを選んだ。
案の定、フレンはその挑発に乗ってしまい、カッと目を見開いてユーリのもとへと舞い戻ってきた。そして犬舎から顔を出したラピードの前で、その拳がユーリの顔面へと飛んだ。グシャッと音を立て、ユーリの手から離れたドッグフードの箱はぬかるんだ地面の上へ中身と共に投げ出された。
「てめぇ……、そういうのだけは一著前だな!!」
左頬を殴られ、尻もちをつかされたユーリも、怒りに任せてフレンへと飛びかかった。
胴目がけて低く突進してきたユーリ。その背に向かってフレンが上から肘で反撃すれば、彼はその一撃に怯んだように見えた。だが次の瞬間、ユーリは見下ろすフレンの顎に向かって拳を突き上げ返してきた。フレンはその一撃で動きを鈍らせたが、仕返しにその腹へ蹴りを入れた。思わず少しばかり後退させられたユーリ。しかし、すぐに彼の顔面目がけて拳を振るった。フレンは右からきたそれをかわしてみせたが、続けざまに襲いかかって来た左の、ユーリの利き手の拳を受けてしまう。だがその強い衝撃にかわまず腕を強く振り払い、またユーリの顔面へと一撃を返した。
「ワンワン、ワン! ワオーン!」
そんな二人の取っ組み合いを見ていたラピードは、いつの間にか大声で吠え出していた。まるで自身に止める力がないのを知っているかのように、誰かを呼ぶように。
しかしフレンへと飛びかかったユーリは、そのまま彼を地面へと押し倒し、馬乗りになって顔面を殴りつけた。そしてフレンもやられてばかりではない。身体をひねってユーリを転がせると、された以上を返すように全力で殴りにかかっていった。
泥にまみれながらも、二人は殴り続けた。まるで、やり場のない怒りを表すように。
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