TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

□心の傷に染みる雨
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シゾンタニアが悲しみに暮れた翌日、雨はまだ止んでいなかった。ユーリは薄暗い街の中を、傘もささずに買い出しに出かけた。向かった先は、ペットフードの置いてある雑貨店だった。

ランバートの命を仕方なくとは言え奪ってしまった責任からなのか、朝目覚めてからというものの、彼は何よりもラピードを優先していた。

そんなユーリが紙袋を手に店を出ると、遠くに人だかりができていたのが見えた。

それは、昨日の事件で亡くなった人の葬儀だった。棺は雨に濡れ、そしてそれを見送る人々の顔も、傘の中で濡れていた。ユーリはその光景から目を背けると、静かに歩き出した。

「お兄ちゃん!」

すると、しばらく歩いたところで、彼の背に向かって呼びかける声がした。ユーリがそれに気付き足を止めて振り返ると、傘を手に駆けてくる一人の少女がいた。それは、昨日彼が助けたエマだった。

「これあげる」
「え?」

エマはユーリの傍まで走ってくると、その手に握っていた小さな赤い傘を差し出した。ユーリは突然のことに思わずきょとんとした声をあげ、少女を見つめた。

「昨日は、ありがとう」

そんな彼にエマは笑顔でそう言うと、傘を彼の手に預け、背を向けて走って行ってしまった。その姿を目で追うと、その先には彼女の母親がいた。彼女が持つ傘の下に入り、その後ろに隠れるように駆けこんだエマ。そして頭を下げる母の後ろから、エマはもう一度笑顔を見せて去っていった。

ユーリは二人を、その姿が見えなくなるまで、ただ呆然と立って見送っていた。

あの襲撃で失った命はたくさんあった。だが一方で、こうして守れた命もあったのだ。小さくても、懸命に輝く笑顔が。確かに。





その後、犬舎に戻ったユーリを、ラピードが嬉しそうに出迎えた。しかし、それは父親を失った寂しさが理由ではない。

「おいおい、わかったから落ちつけって。詰まらすぞ?」

ラピードが心待ちにしていたのは、ユーリではなく、彼が買ってきた新しいドッグフードの方だった。皿いっぱいに盛られたそれを、ラピードはがつがつと平らげていく。ユーリはその様子を黙って見守っていた。

するとその時、彼の耳にひとつの物音が届いた。それは犬舎の隣にある馬小屋の方から聞こえてきたようだ。ドッグフードの箱を片手に立ちあがると、ユーリは犬舎の中から馬小屋をのぞきこんだ。

「フレン」

そこには、帝都から戻ったばかりの久々に見る顔があった。

雨に濡れた髪をタオルで拭いていたフレンは、呼び声に反応して振り返った。そして青い瞳に映ったのは、ドッグフード片手に呆然と立っている久々に見る顔だった。
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