TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

□近づくは陰
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「それでは、この報告書、お預かり致します」

入れ替わるように、親衛隊の声が小さく聞こえてきた。影とレイヴンは共に、岩陰からそのやりとりに目を向けた。

(何!?)

そしてようやく目にすることが出来た親衛隊の話し相手。それを目にしたレイヴンは目を丸くし、共にいた影はそのやり取りに苛立たしげに歯を食いしばっていた。

しかし、それでも黙ってやり取りを見過ごし、男達が去って行ってから、彼らがいた場へと足を運んだ。

「何だか、ややこしいことになっちまってるなぁ」

困ったような溜息をつき、レイヴンは影――山吹色の髪の騎士、クレイに話しかけるように呟いた。クレイは苛立ちを隠さず、その美しく整った髪を乱暴に掻いた。


***



『エアルの力だけでそこまで影響が出るってのも、おかしくない?』

森の奥で見つけた一軒の建物。そこの膨大な書類に囲まれたベッドの上で、目的の人物であるリタ・モルディオは眠っていた。

だがその容姿は、ナイレンの想像とはまったく異なっていた。

ガリスタから聞いた情報は、気難しい性格の魔導器研究家ということだけ。彼が薦めるくらいである、数十年という長い年月を魔導器のために注ぎ込んだ人物なのだろうと予想していた。

しかし、彼らの目の前に現れたのは、せいぜい十代前半のあどけない一人の少女だった。

日がようやく顔をのぞかせたばかりの早朝。睡眠の真っ最中に突然訪れたナイレンとシャスティルを泥棒と勘違いし、一度は寝ぼけながらも魔術を発動させて追い払おうとしたが、その攻撃からなんとか逃れたナイレンの相談に、今はうつらうつらと船をこぎながらも耳を傾けている。

『ちょっと待って。シゾンタニア?』
『川上の湖に遺跡があって……』
『ああ。あたし、あそこ調べたことあるわ』

リタは思い出したように声を上げた。そして首を傾け、ナイレンを見上げながら言葉を続けた。

『でも、あそこの結界魔導器に魔核はなかったわよ』
『じゃあ、魔導器は動いてないんだよな?』
『そ。それにあそこには、エアルクレーネもなかったと思う……っ!』

リタは答えながら、ナイレンに上半身だけで飛び掛かった。その緑の大きな瞳に映っているのは、ナイレンが情報提供の対価に差し出すと言って見せびらかした、金色の小さな魔核のペンダントだ。寝ぼけ眼のリタを目覚めさせるほど、彼女にとっては魅力的な物であり、そして彼女をお喋りにさせる道具でもあった。

『エアルクレーネ?』

疑問の声を上げたのは、ナイレンの横で話を聞いていたシャスティルだ。ペンダントを掴もうとし、まるでナイレンにねこじゃらしで遊ばれているようになってしまっているリタは、ベッドの上で伏せた格好から上目遣いでシャスティルを見てその質問に答えた。

『エアルの発生する泉みたいなもん。ま、エアルは大地に流れてるからどこにでもあるんだけど、特に噴き出す場所ってのがあるの』

そしてそこまで話した後で、リタは手を顎に当て、独り言のように淡々と言葉を続けた。

『でも今、エアルが大量に発生してるってことは、誰かが魔導器に魔核を入れて作動させたのかも。そしてそれが暴走して、エアルが噴出してる……とかね。魔導器は様々な動力になる便利なものだけど、使い方間違えると危険なものにも変わるわよ』

彼女はそう言い、肩をすくめていた。
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