TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜
□近づくは陰
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まだ日の昇らない暗い時間。シゾンタニアを囲む崖の道の中。そこはけわしく、一般人が踏み入るような場所ではない。
しかし、雨の降りしきるそんな場所を、ふらふらしながら出歩く一人の男がいた。
「おっさんには堪えるな、この道は」
深いため息をつきながら彼、レイヴンは岩壁にもたれかかって崖の上に視線をやった。
メルゾムに仕事を任されてから数日、彼の望むものは何も手に入っていない。
近くで魔物騒ぎは起きるわ。雨は降るわ。
ただでさえ簡単ではない仕事だ。少なからず老いが始まっている身体には負担がかかるものだ。
そんな愚痴っぽいことを考えていた時だった。
突如彼の視界に入ったひとつの影。それは人の形を成し、街へと続く橋の上を駆けて行った。
「こんな時間になんだ?」
その光景に感じた不穏な何か。レイヴンはすかさず崖下からその後を追いかけた。
その先で彼が見たのは、血にまみれた鎧をまとった者と、その相手とのやりとりの一部だった。
「ほ、本当です! 魔術を使おうとしたら、いきなり魔導器が爆発したんです!」
(魔導器が爆発!?)
慌てるあまりなのか、切羽詰まった様子で相手に話す鎧の男。彼が発した物騒な言葉に、レイヴンの目が思わず大きくなる。
(アレクセイ親衛隊? 相手は誰だ? ……くそっ!)
見覚えのあるその鎧の色は、帝国騎士団団長であるアレクセイの部下のもの。そんな人物がこの辺境に現れたことにも疑問はあるが、今はそれよりも、そのような重要な報告を受けている相手を探りたかった。
だが、今レイヴンが立つ場所からでは、その相手は全くと言っていいほど見えない。彼は急いでその場から離れ、気配を消して上へ続く道を進んだ。よりはっきりとその相手を視認するために。
しかし、彼が向かった先には思わぬ先客がいた。岩の影に潜み、彼が窺おうとしていた先を見ているひとつの影。それは、静かに近づくレイヴンに気付く様子はない。
「!」
「動くな」
その影の首筋に光らせた小刀の刃。低く発したレイヴンの脅し。影は僅かに肩を上下させたが、それきり大人しくなった。
だがそう思った次の時、影はレイヴンに顔を向けることなく、一瞬で小刀をその手から奪い、逆に彼の首を強く握りしめた。不意打ちともいえる反撃に思うように応戦出来ず、レイヴンは驚きながら声にならない呻きをあげるしかなかった。
しかし、その力は急激に緩んだ。彼はそれに驚き、咳き込みながら相手の顔を覗き込んだ。
「はれ? あんた確か……!」
そして二度驚き、開いた彼の唇に、影が人差し指で封をした。
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