TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜
□守るべき命、討つべき命
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――まさか……!
目を疑った次の瞬間、ランバートは血を滴らせている牙を剥き、それまで聞いたことのない――犬のものとは思えない――鳴き声をあげた。そしてその体は宙に浮き、彼の両横からは、共に姿を消した二匹の軍用犬たちの変わり果てた姿も現れた。
一行は思わず、目の前の事態に息を呑んだ。三匹をそのような姿に変えていたのは、先ほど馬車を襲っていた、例のクリーチャーだった。彼らはその先端部分に取り込まれており、すでに自我は失われている。ユーリらの心に絶望が姿を見せた、次の瞬間だった。
「うわあああああああ!!」
ランバートが一瞬のうちに、ギルドの男をまた一人掻っ攫っていった。
それも、仲間だったユーリ達の目の前で。
男は絶叫を残して覆う木々よりも高く持ち上げられ、そして、絶望に満ちた悲鳴を最後に戻ることはなかった。かわりに、男の姿が見えなくなった空高くから、バケツの水をこぼしたように、ユーリを除くナイレン隊の頭上に真っ赤な血が降り注いだ。ユルギス達は降ってきた大量の血に怯み、身を縮め、小さな叫びを上げた。
「ランバート……」
クリーチャーと化した仲間に、ユーリは力なく声をこぼした。
目の前の現実が夢であって欲しいと願うように。魔物と一体になってしまったとはいえ仲間と戦えない、その心の揺らぎを表すように。
だが、口から鮮血をこぼしているランバートに、ユーリのその想いはもう届かない。メルゾムらギルドの一行を相手に、彼らの鋭い牙は絶えず襲い掛かる。
「…ひっ……やぁぁぁああああああああ!!」
その時、ヒスカの悲鳴が響き渡った。
頭からかぶった大量の鮮血。全身が紅く染まっている。
自分の赤くなった掌から感じた「死」に恐怖を覚え、彼女は半ばパニックに陥っていた。
そんなヒスカに、さらに恐怖が襲い掛かった。彼女の悲鳴を耳にしたランバートが、照準を彼女に変更し、すごい速さで牙を立ててきたのだ。ヒスカはそのままランバートによって地面に押し倒され、必死に自分に向けられる牙に抵抗した。
「ランバート、やめて!! ランバート!!」
だが、ヒスカの必死の叫びも、もはや聞こえていない。牙から身を守ろうと出される彼女の腕へ噛み付こうと、ランバートの攻撃の勢いはいっこうに止まない。
そこへ白い光が割って入った。クリーチャー・ランバートはそれに気づくと、ヒスカの元から一度退避した。代わりに彼女の前に現れたのは、剣を一閃させた隻眼の騎士だった。
「クレイさま……!」
クレイは怯えた瞳をしているヒスカをかばうようにして立ち、剣をまっすぐクリーチャーへと向けた。
だが、その瞳には僅かながらも迷いが存在していた。悔しそうに口を動かしランバートの名を呼ぶ。だが、そこからは何も聞こえない。それでも、彼の心に何か伝わらないかと願いを込めて。
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