TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

□騒がしい日常
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***



翌朝。

いつものようにフレンは身なりを整え、任務の支度をしていた。更衣室を出たそんな彼の視界に入ったのは、バスルームでもないのに濡れた床。それは点々と、彼と同じ部屋で過ごすもう一人の同僚が使用するベッドへと続いている。

「いつまでそんな格好してるんだ?」

その同僚に、フレンはため息をつきながら問いかけた。

窓側の椅子に腰掛け、小さなテーブルの上にある器に盛られたグミの山を掴み、口に放り込む同僚。彼は任務に向かう準備も終えておらず、それなのに面倒臭そうにフレンを見て答えた。

「ちょっとくらい大丈夫だよ。細かいなぁ、おまえは」
「それと床!」
「いちいちうるせえな」

彼はため息を吐きながら、またグミを一握り手にとって口へと運ぶ。やる気など全く感じさせない彼――ユーリはフレンから目を離し、頬杖をついた。

「あー。不幸だな、俺。お前と赴任先が同じ。部屋も同じ。…嫌がらせだぜ、きっと?」
「それはこっちの台詞だ! 何度も言うが、何で君が騎士団に!?」

几帳面なフレンとずぼらなユーリ。

正反対な二人は、いつもこうしてもめてばかりいた。

適当なユーリの言動に、フレンはイラつかされ、彼の説教を受けてユーリもまた苛立ちを増す。二人は懲りることなく、それを繰り返していた。

「二人とも、入るわよ?」

その時。二人の部屋の戸をノックする音が聞こえ、誰かが中に入ってきた。

「何やってんのよ、時間でしょ!」

そして直後、二人を叱る声が飛んできた。

フレンの教育係を受け持つ、双子の姉シャスティル。彼女の目に映ったのは、支度が途中のままいがみ合っている二人の後輩。お叱りの声が飛ぶのは当たり前だった。

すぐにフレンは彼女に向かって「すみません」と謝った。それに対し、ユーリは何も言わない。拗ねたようにそっぽを向き、小さく鼻を鳴らすだけだった。

「急げー」

その様子を扉の影からのぞきながら、ユーリの教育係であるヒスカののんきな声も彼らへと飛んできた。シャスティルも、もう一度キツイ目で彼らをにらみつけ、部屋の戸を強く閉めて出ていった。

そのあと、ユーリが大げさにため息をついたこと、そして、そんな彼にフレンがイラついた視線を向けたことを、扉の向こうにいる彼女たちは知らない。
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