TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

□初陣
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***



満月が輝く、真夜中のシゾンタニア渓谷。その場所を、複数の影たちが駆け回っていた。

「ちょっと、急ぎすぎ!」
「モタモタすんなよ!」

その中の一組。両側を深い岩壁で囲まれた細い道を走る青色の鎧を着た男女二人は、ややもめている様子だった。

先を走るのは男の方で、それは闇に似た黒い髪と瞳をした少年だった。その彼から少し遅れて走っているのは、彼より少し年上の少女で、暗闇の中でも醒めるように美しい赤髪をひとつに結い上げているのが特徴だ。

「ユーリ、こっちこっち!」

途端、少女は突然立ち止まり、先行く少年――ユーリを呼び止めた。彼が足を止め振り返ると、彼女はその場にしゃがみこんでいた。そして荷物の中から何やら機械のような物を取り出すと、手早く地面に設置していた。

「よし、次!」

それが終わると、少女はユーリを連れて再び駆け出した。

「何個設置すんだ?」
「あたしらは三つよ」

彼女に背中を押される形で再び駆け出したユーリ。徐々に足を速めながら確認をしていると、後ろから大群の足音が聞こえてきた。振り返れば、ウルフの大群が迫ってくるのが見える。彼らは手際よくまたひとつ機械を設置すると、魔物の群れから逃れながら最後のひとつの設置場所へと駆けて行った。

一方、巨大な岩壁をはさんだ向こう側では、別の組が同様に駆けていた。うち一人は短い金髪の少年で、その隣を走っているのは、ユーリと一緒にいる少女と容姿が瓜二つの少女だった。

「っと! こっちこっち!」

その少女も足を止めてしゃがみこみ、ユーリの連れが持つ物と同じような機械をその場に設置していく。その間、少年は彼女を守るように剣を構えて立ち、周囲を警戒していた。

「行くよ、フレン!」
「はい!」

間もなくして設置を終了させた彼女は、その少年――フレンに声をかけてまた駆け出した。

「遅れないでよ!」
「他のチームは大丈夫でしょうか?」

フレンは言って、渓谷の中を駆け巡る他の仲間たちを気にしていた。しかし、今は自分達の成すべきことに集中しなければならない。それ以上の会話は大して行わず、二人は次の目的地へと急いだ。





「ちょっと、作戦通りに動いてよ!先行しすぎ!」
「チンタラやってられるっかっての!」

そんなフレンの心配も知らず、ユーリら二人組は言い合いをしながら、変わらずウルフの群れに追われるように走っていた。目の前にある崖を飛び降り、上手く着地を決めて更に先へと進む。だがウルフらも崖を下り、その後ろをついて来た。しかも、巨大な牙を持つ巨体の主ボアまでもがそのウルフの群れに加わり、ユーリらの後を追いかけてくる。

「追いつかれる!」

このままでは拙い。

少女は追いかけてくる魔物を一瞥しながら叫ぶ。ユーリも振り返り、このまま逃げ切ることは難しいと思ったのだろう。

「行け!」
「任せた!」

くるりと体の向きを変えると、少女に向かって短く叫び先に行かせる。ユーリの前には両手足の数を超える魔物が立っているというのに、彼は口元に余裕の笑みを浮かべながら剣を抜いた。
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