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□彼女の面影
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「―――コラ!
仮面をつけないか!」

「嫌よ。
私あの仮面嫌いなの。
蒸れるし、痒くてもかけないし、汗が流れても拭けないし、息は苦しいし、視界もせま」
「それはもう聞き飽きた。
規則なのだから守れ。」



そう彼女に怒鳴ったのはもう何年前か。

先の聖戦の話なので……おそらく250年近く前だろう。


何故そんな昔の事を思い出したかと言えば、この目の前の女性、もとい少女のせいだ。

ムウと同期らしいその娘は仮面が面倒だからとずっと男のフリをして聖闘士として生きてきたらしい。

自由と言うか、無頓着と言うか…

とにかく自由でムウのお小言が止まらない。

かつての自分達を見ているようで可笑しい。





「――――まったく、シオンはお堅いなぁ!」

「お前が大雑把なだけだ!」



大袈裟に肩をすくめて笑う彼女に戦友以上の情を抱いていたのを覚えている。

聖衣を纏う時以外は男装している彼女はシャレっ気もなく髪も伸ばし放題だった。

しかしその髪が風になびくのを見るのが好きだった記憶がある。

朗らかに笑う顔も風に乗って届く石鹸の匂いも。

強くしなやかに生きる彼女は確かに自分の青春の象徴だった。



もうだいぶ薄れてしまった記憶だが、彼女が好きだったという記憶だけは確かに自分に根付いている。

今となってはそのきっかけになった言葉ですらあやふやだが…





「音夢っ、仮面をつけないと貴鬼にも示しがつかないでしょう?!」

「だから黙ってれば分からないって。」

「もう!そういうことではないんです!
シオン、貴方からも言ってやってください!」

「あー…
音夢よ、前教皇を前にして堂々と規則を破る宣言をしなくとも…」




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