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□ある日常の寒い日
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「どうしてこうなった。」



ソファに沈む身体。

右腕は腰に。

左腕は顔の横に。

ずしりと乗り掛かる先には頭一つ分もない距離にアイオロスの顔があった。



「音夢が寒いって言ったから。」

「寒いとは言ったけど、襲ってくれだなんて言ってないわ…」



キョトンとした顔で言うアイオロスに頭が痛くなる。

恋人が「寒い」って言ったなら、熱いコーヒーをいれるとか膝かけをかけるとかあるだろうに。

何故私は押し倒されているのか?



「寒いなら温めてあげようと思って。」

「…暑苦しいわ。」



人肌でか。

原始的だね。

もうちょっと文化的にいかない?



「いいじゃないか。
私も少々温もりが欲しかったところだ。」

「アイオロス、貴方は薄着過ぎよ。
ジャージにシャツだけだなんて信じられないわ。」

「そうかな?
でもそう思うなら温めてよ。」



そう甘く囁いたアイオロスの顔はいつの間にか耳元に。

右腕は腰をぐるりと回っていた。

左腕は髪を撫でて頬を滑る。



「な、ちょっと?!」

「どうしたの?
ベッドの方が良い?」

「そういう問題ではなくてね…!」



顔がしかめっつらになっているのが分かる。

どうしてちょっと寒いなって呟いただけでこんな事になっているの!?

って、いつの間にか足まで絡んでるっ。

光速をこんなところに使わないでほしい。



「音夢、そんな可愛い顔しないでよ。」

「この眉間のシワを可愛いと思うのならアイオロス、貴方の審美眼はきっとブルーチーズのようになってるのよ。」

「そんな事ないさ!
音夢のこの顔はね、照れ隠しの時の顔なんだよ。
恥ずかしいのを我慢してる顔。」

「なっ!?」

「音夢は本当に嫌なら殴ってでも抜け出すだろうからね。」



そう言って聖母様も真っ青になりそうなくらい穏やかで優しい笑みを浮かべたアイオロス。

いたたまれなくなった私はただ頬を染めるしかなくて…



「いただきます。」



林檎のように真っ赤に熟れた私の頬は一瞬で彼に食べられた。




 

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