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□可愛いは君の愛
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「リア……可愛い。」



いつもより潤んだ瞳で音夢が呟く。

いや、呟くというよりもっとはっきり聞こえた。


普段ならばほだされてしまう音夢の声に寒気を覚える。

明らかに可愛いとは掛け離れたがっしりとした体つき。

身長も音夢より頭一つ分以上高い。

なのに何故彼女は俺を可愛いと言うのだ?!



「音夢、少々酔っているんじゃないか?」

「んー……かもね。
でもリアが可愛いのはいつもよ?」

「俺も子供時代ならばそう言われても渋々頷いたかもしれないが、どこをどう見れば可愛いんだ…
君は紛れもなく酔っている。」



心外だと瞳を大きく見開いて彼女は驚いた顔をした。

いや、心外なのも驚いたのもこちらの方なのだが…


本気で眼科に連れていかねばいけないかと思った瞬間だった。

音夢がソファに座る俺の上に座る。

向き合う形になって、腕が首に回った。

彼女の尻が俺の足の上に乗って柔らかく形を変える。

酔っている、と言った言葉通りほんのり酒の匂いがした。

頬に朱がさし、潤んでいる瞳が俺を見上げる。



「――そうやって照れて顔を背ける仕種も可愛いわ。」



ちゅっ、と頬に触れるだけのキスで顔を離す。

色っぽい顔に似合わず子供のように無邪気に笑う。

…可愛い。



「その……、音夢の方が、…………可愛い。」

「リア、今の凄くきゅんとした。
私ね、分かったの。」



何が?と首を傾げて尋ねたのは無意識だ。

彼女はそれを見てまた可愛いと言う。



「だから俺は可愛くなど…」

「可愛いってね、愛しいってことなんだわ。」

「………」

「だから私、いつでもリアが一番可愛く見えるのね。」



クスクスと笑う音夢が俺の肩に頭を預ける。

首にあった手はいつの間にか背中に回り抱きしめられていた。

なんだ、この可愛い生き物は…!



「音夢が可愛すぎるのがいけない…」

「は?え…?」



ソファに沈んだ音夢がパチパチと瞬く。

それだけなのに酷く可愛い。



「……そうか、そういうことか。」

「どうしたの?」

「音夢が一番可愛いってことだ。」



そう言って彼女の唇にかぶりついた。





(キスはほんのりアルコールの味がした)

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