暁の蒼い薔薇
□Prologue 廻りだす運命の歯車
1ページ/1ページ
果てなく続く闇の空間に、一人の男は立っていた。
その漆黒に照らし出された青白い己の両手を見詰め、男は口角を僅かに上げた。
「………そろそろ、か」
男は依然として笑みを浮かべたまま両手を握り締めた。
脳裏に蘇ってくるのは、確かな記憶。
床に広がる真紅と、最後の笑顔と共に儚くも散っていったあの「約束」。
「…こんな理不尽で腐った世界なんて、俺が作り直してやる」
そして三人でまた笑って…今度こそ幸せになるんだ。
男は黒を仰ぎながら言った。自嘲的な笑いが口許から零れた。
「……………どうして……どうして俺が……ッッ!!」
男の頬を一筋の雫が伝っていった。それが黒を乱反射しながらぽたり、と滴る。
男はそれを腕で拭うと、傍に咲く一輪の蒼い薔薇に目を向けた。花弁がはらり、と地に落ちる。
残る花弁は、たったの二枚。
「―――復讐戦の、幕開けだ」
抱いたユメは、ほんのちっぽけな「幸せ」。
でも、俺には…それを抱く事さえ許されないのか……?
…どうであろうと、絶対に取り戻す。
あの幸せだった頃の日常を、風景を、笑顔を。
その先に待つものが破滅でも良い。
その為に多くの犠牲を払うことになったって構わない。
ただ、俺が願うのは―――…
「―――…これは父さんと母さんとリオンの三人だけの約束ね?」
小さな「願い」を乗せた無機質な歯車がゆっくりと廻り始めた。
.