*テニス短編

□わかってたはずなのに
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私はブン太が好きだ

ずっと前から、好きだ。
けど、そのブン太には好きな人がいる。
それを知っている私はブン太に告白する気になんて到底なれなくて…。
フラれるのが嫌だからというエゴな考えを盾に何も言わずに友達という便利な距離を保っている。
我ながら馬鹿らしくて、滑稽で、笑えてくる。
そのブン太の好きな人が、私の親友なのだから。
いつも私とその子の2人の時にブン太は話し掛けてくる。
彼女が1人でいる時は話しかけない、おそらく恥ずかしいから。
でも、私が1人の時は話しかけてくれる。
話ができるのは嬉しいし、楽しいし、幸せだ。
それと同時に、私には友達という感情でしか接してくれないのが悲しい、辛い、切ない。
胸が苦しくて泣きそうになる。
痛い、と思って胸に手を当ててもモヤモヤはちっともとれない。


「……架弥?おーい、…どうした、しんどいのかよぃ?」

俯いていると、ブン太が顔を覗きこんできた。
あぁ、ただいま現実。

「っ!?…ぁ、いや大丈夫。………、2つ前の問題間違ってる。」

え、マジかよー。と言いながら課題にとりかかるブン太を見ながら、教室に響くシャーペンの音を聞いた。
残っている課題を止めて私を心配してくれたブン太に嬉しくなる。
嬉しい、けれど、どこか悲しい。



今日、放課後に課題見てくれよってブン太は頼んできた。
Aちゃんじゃなくて、私に。
なんでAちゃんじゃなくて私に言うんだ…と疑問に思ったけど少し考えればすぐにわかった。
多分理由は1つ。

「なぁ……、変なこと聞いていい?Aってさ、好きな奴いんのかな?」

Aちゃんの好きな人が知りたくて、私を頼ったんだ。
あぁ、また胸が痛くなってきた。
でも私は、笑顔で答えてあげないといけない。
それがブン太の望みだから。

「ん〜…。誰もいなかったと思うよ、多分ね。あの子、あんまり男子との関わりないからさー。」

「……ふぅん…。そっか。」

適当な返事をしてるけど、本当は嬉しいんだろうな。
興味ないふりしたって無駄なのに、知ってるのに。
あ、また、ズキン、と胸が痛くなる。
嘘でも、Aちゃんには好きな人いるよ、とでも言えたら少しはブン太の気持ちが変わったのかな…。
でもそんなことしちゃいけない。
ブン太が悲しくなったらどうせ私も悲しくなるんだから。
どっちにしろ私は幸せになれないんだろうな。

「じゃあさ、架弥は好きな奴いんのかよぃ?」

「………は?」

びっくりした。
興味半分の面白半分なんだろうけど、ブン太が私に聞いてくるなんて思わなかった。
だからつい、疑問に疑問を返してしまった。

「いや、だから架弥は好きな奴、いるのかよぃ?」

いるよ。
目の前に。
でも、そんなこと言える勇気なんて私には全くない。
ふられるとわかってて告白するほどバカでもなければ挑戦者でもない。
いない、なんて嘘もつけないから私はこう答える。

「……いるよ。」

適当な返答。
これが一番安全。
誰とは言わなければ誰も傷つかないよね。
言っても私しか傷つかないけど。

「え?誰々?このクラス?テニス部?」

なんでブン太はAちゃんより私の好きな人について知りたがるんだ…。
どうせからかいたいだけなんだろうけどさ。

「うんー、そうだよー。」

適当に、感情を込めないで、棒読みでそう言ってやる。
そうすれば嘘だって思ってもらえるから。
それよりも、人に恋愛を聞くんだったら自分も聞かれるという覚悟ができてるはず。
私は知ってるけど一応確認のために聞いておく。

「それより、ブン太はどうなの?好きな子、いるの?」

いるんでしょ。
Aちゃんなんでしょ。

「俺は……いる。うん、このクラスに。」

ほらね、やっぱり。
予想は確信となって私の胸を締め付ける。
覚悟はできてたハズなのに…さらに悲しくなってきた。
私は本当に馬鹿だった、聞かなきゃよかったと思った。
これ以上悲しくなるなんてないって勝手に思って、傷口剔ってる。
どこかで思ってたんだ、ブン太に好きな人いないといいなって。
そんな考えは浅はかだった。
…そんなわけ…ないのにね…。

「そっか。…その恋、叶うといいね。ごめん、私用事あるからもう帰るね。…また明日。」

気が付けばカバンを持って教室を出ていた。
目から涙が溢れ出ている。
ブン太の前では笑顔でいられたけど、教室を出ると涙が止まらなくなってしまった。
わかってたのに、この恋は叶わないって。
わかっていたはずなのに、すごく、悲しい。

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