*テニス短編

□今はいない、もういない
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寒い風が私達の隣を吹き抜ける。
今日の最高気温は6℃らしい。
あぁもう、寒いなぁ。
体を震わせて隣を見れば幸村さんがいて、私の歩幅に合わせて歩いてくれている。
私がそっと手を握れば幸村さんは優しく握り返して指を指の間に絡めて恋人繋ぎにする。
少し恥ずかしくなって顔が赤くなるのが分かる。
冷たい手がだんだんと温かくなっていく。

「…恥ずかしいです。」

マフラーに顔を埋めて呟けば幸村さんは苦笑した。
何で苦笑なんだよ…。

「手を繋いできたのは架弥だろ。」

そりゃそうなんだけど、…そうじゃない。
手を繋ぎたかっただけで、別に恋人繋ぎをしたかった訳じゃない。
文句は言わないけど。
でも、幸村さんはしっかりと手を握って離してくれそうにないし、私も本音は離したくない。

「………ばぁ〜か…。」
「なにそれ、嬉しいくせに。可愛い奴。」

あぁ、もう!
嬉しくて悪いか!
顔が赤いのが自分でもわかる。
プクッっと頬を膨らませると指で突っつかれた。
恋人同士でやるこの光景、私は始め甘くて仕方がなかった。
今は凄く慣れてきて、大分真っ赤になるのは無くなってきたけど、…やっぱ恥ずかしいものは恥ずかしい。

「ねぇ、架弥は今幸せ?」

とっても、いきなり聞いてきたその言葉を聞いて、私は勢いよく頷いた。
どうしたの。
そんなの当たり前じゃん。
隣を見れば幸村さんがいる、今が凄く幸せだよ。


* * * * *


時はあっという間に流れて、桜が綺麗な4月上旬、私達は3年生になった。
清々しい気持ちの友達とうってかわって私は少し気が重い。
なぜなら大好きな幸村さんはもういない。
後、私が1ヶ月早く産まれれば、一緒に進むことが出来たのかな。
幸村さんが後、1ヶ月遅く産まれれば、まだ隣にいたのかな。
そんな事を考えても私が中3で幸村さんが高校生になったのはかわらない。
風は吹いて、桜を散らす。

「架弥!何突っ立ってんだよ、始業式始まんぞ。」

春休みの間にも少し身長の伸びた赤也が私を急かす。
前の方で手を振って叫んでいる。
落ち着きがないなぁ、真田にもっと渇入れて貰えば良かったのに。

「…わかってるよ。結局、幸村さん達に勝てなかったね。」
「う、うっせー、高等部じゃ負けねぇよ。」
「私も早く高等部に入りたいなぁ…。」

追い付くまで、また一緒に笑って過ごせるまで、あと一年。
でも、一年ってもの凄く長いんだよ。

隣を見ても、幸村さんはいない。





今はいない、もう居ない。>



(去年の記憶が頭から離れない)
(もう貴方は居ない。)
(心のどこかが凄く痛い。)





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