*テニス短編

□明るい未来に終止符を
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「ねぇ、…俺達別れない?」


目の前に居る架弥は目を丸くしてキョトンとしている。
そりゃそうだ、付き合って何事も無く、このまま結婚すらするんじゃないかって位うまくいってたのに、いきなり別れよう何て言われたら誰だって信じられないだろ。
ついさっきだって、一緒に手を繋いで仲良く話していたのに。

「…わかった。…幸村さんがそれを望むなら私はそれを受け入れる。でも一つだけ言わせて、私は幸村さんの傍に居れて幸せだった。」

架弥はそれでも、俺を信じて好きでいてくれる。


ありがとう。
ごめん、俺も大好きなんだ。
今も、きっと、これからも。



 * * * * *


思い返せば始めはそんなに架弥の事は好きではなかった。
クラスは同じだったけれど、そんなにという程接点もなかったし話す機会なんて全然なかった。
そんな架弥に惚れたのはいつだっけ。
確か架弥が誰かに呼び出されて「付き合って」と、言われているのを見つけた時かな。

「ありがとうございます。けど、ごめんなさい。貴方が思っている程私は良い人間じゃないし私には好きな人がいるんです。」

はっきりと淡々と、尚且つ丁寧に言う架弥の姿と声は今でも鮮明に頭に残っている。
…好きな人って誰だろう。

「そっか、好きな奴いるんだ…。悪いな、呼び出したりして」
「こちらこそごめんね、呼び出してくれたのに。」
「なぁ、逆恨みなんかしねぇから好きな奴…、教えてくれねぇか。」
「あ、誰にも言わないでね。同じクラスの…幸村さん。」


…ふぅん、俺なんだ。
……………………………………。


「そっかぁ、そりゃ俺じゃ敵わねぇわ。ありがとな。あ、叶うといいな、その恋。」

そう言って走り去る男子は少し悔しそうだったけど、清々しい顔もしていた。
男子に「ありがとう」といい、後ろ姿を見送る架弥に少し悪戯がしたくなった。
ちょっとした出来事だ。

「へぇ…、大崎さんって俺の事好きなんだ。」
「……ッ!!??」

ビックリして振り返った架弥と目が合った。
顔を真っ赤にして慌てる架弥が可愛いなぁと思ったりした。
口をパクパクして何か言おうとしているけれど全く言葉になってない。

「…ねぇ、俺の事好きなら付き合わない?」
「え、でも、あの、いいんですか。」
「君は嫌なの?」

そう聞くと架弥はブンブンと首を振った。
そんなに首振ったらとれるよ。

「よ、よろしくお願いします」

弱々しく言う架弥の頭を撫でると架弥は顔をさらに赤くした。


そうして俺らは付き合い始めた。


 * * * * *


部活が終わって待ち合わせた場所に少し駆け足でむかうとそこに架弥は携帯を弄りながら待っていてくれた。
何分待たせたかな。

「ごめん、寒い中待たせたね。」
「ううん、幸村さんを待つなら何年でも待つよ。」
「フフフ、俺が君をそんなに待たせると思う?」
「無いと思う。例えあったとしてもずっと待ち続けるよ。」

「………ありがとう」

そう言って笑うと架弥も太陽みたいに温かく笑い返してくれた。
本当に俺は愛されているな。
学校を出て駅に向かって歩いていると、ふと俺の冷たい手を握ってきた。
どうしたのかと架弥の顔を見ると少しだけ赤い顔で照れ臭そうに笑った。

「手、冷たそうだったから。」

架弥は握った手を自分のポケットに入れると前を見て再び歩き出した。
小さな気遣いも欠かさない架弥は本当に良い子だ。
俺なんかの彼女で良いのかな、こんな弱い俺の。
俺はもうそろそろ危ない。
最近、たまに体が動かなくなる。
疲労だと思いたいけど恐らく何らかの病気だろう。
家族にもまだ話してない。
本当に病気だった時、どうすればいいのかわからないから。

学校は、勉強は、家族は、テニスは、…架弥は?
そうだった時、失うのが怖い、離れてしまうのが嫌だ。
架弥は優しいからきっと小さな病気でも凄く悲しむだろう。
きっと俺の傍にいて支えてくれようとする。
けど、それじゃあ俺は強くなれない。
きっと架弥に甘えてしまう。
それじゃ駄目なんだ。


だから俺は架弥から離れないといけない。
悲しませない為に。


「ねぇ、俺達別れない?」


明るい未来に終止符を打った。

それは傷付かない為の保険なのか、ただの自己守護なのか、…もうどっちでもいいや。

本当に君が好きなんだ、心から愛してる。
だから別れを持ち出した。




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