時の旅人

□第五章
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こうなったのは町に足を踏み入れて1分も経っていない頃だった。
やはりどこか江戸の雰囲気がある街並みに感動していると前がおろそかになり誰かにぶつかってしまった。




「あ、すいませ、ん…」

「いえいえ、こちらこそ」




特に因縁とかもつけられずさわやかに過ぎ去っていく“誰か”。
私の横を通り抜ける“誰か”に私はその場を一歩も動けなかった。




「凪?どうしたッスか?」

「ま、ま、また子、ちゃん…?」

「な、なんでそんな涙目なんスか!?」

「ゲ…」

「げ?」

「ゲテモノがぁああ!!!」




ぶつかったのはトカゲみたいな頭をしたゲテモノ。
全身が震え目頭が熱くなってくる。
それからというもの私はまた子ちゃんにしがみつきできるだけ視線を下に向け前を見ないようにしていた。
それでも見える人間ではない足のなんか…もういや。





「早く帰ろうよ…」

「あれだけはしゃいでおいてよく言うぜ」

「あんなゲテモノが往来してるなんて聞いてなかったんだもん!」

「言ってねェからなァ?」

「私ゲテモノ嫌いって言ったじゃん!!」

「そうだったかァ?」

「〜っ!高杉のバカッ!!」

「あ、凪!!」




私は半ば叫ぶように言い放ちまた子ちゃんから離れ全速力で来た道を引き返した。
後ろでまた子ちゃんたちが何か叫んでいたけど私は振り返らずに走って走って走りまくった。
ゲテモノを見ないように目をつむって、こけないようにだけ気をつけて。

気が付けば私は江戸の町を出ていた。
元々一本道なんだ、まっすぐ走れば嫌でも元の場所に出る。
ゆっくりと目をあけるとそこにゲテモノはなく、安堵とともに近くの壁に背を預けずるずると腰を下ろした。




「…高杉のバカ野郎」




あんな奴だってことは知っていた。分かっていた。
薄々だがこうなることだって予想はしていたんだ。
それでも高杉の思い通りに事が運んでしまったことと自分の弱さを見せてしまったことが悔しくて恥ずかしくて走っていた。簡単に言えば照れ隠しなんだが…





「はぁ…絶対高杉怒ってるよな…」





あんなストレートにバカって正面切って言ったの初めてだしアイツプライド高いし?
でも今回は100%高杉が悪いのに私から謝るのは癪だ。




「…戻らなきゃ、いけないよね…」





高杉が私を江戸に下すのに出した条件は「離れないこと」だ。
現在進行形で私はそれに反してる。
戻らないといけないことは分かってる、分かってるがまたあのゲテモノの中に行かないといけないのは苦しい…





「くそぉ…高杉の大バカ野郎」





私はまた悪態をついて乱暴に目じりに溜まった涙をぬぐった。












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