07/06の日記
07:20
しりとり(晶♂とオーエン)
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夜、シャイロックのbarは大盛況だった。
先日のパレードを無事に終えた祝いとして、シャイロックが是非にと提案してくれたのだ。
パレードを終えるまで本当に色々な事があった。
時にぶつかって、疑われて、もう駄目かと思った事もある。
でも和解して、少しずつ話すようになって、協力しあって、助け合って。
賢者と呼ばれるようになってから一年と少し。
そんな事を思いながらbarに遊びに行ってみると皆の姿が見えた。
ブラッドリーとムルとラスティカという珍しい組み合わせで行われているビリヤード、酒とゲームを嗜む大人の社交場という雰囲気が溢れていた。
飲んでいるカクテルも『ゴッドファーザー』『ホワイトルシアン』『ジプシー』と強めだ。
テーブルスペースではこれまた珍しくミスラとクロエとリケとミチルがトランプ。
その側でルチルはファウストとネロとレノックスを相手に自分の絵を披露している。反応は様々だ。
スノウとホワイトはカウンターで見た目によらず二人してマティーニオンザロックというグラスを傾けながら、シャイロックと、時々オーエンに話しかけていた。
反対側ではフィガロとオズが話をしている。
フィガロはフレンチコネクション、オズもドリームというブランデーベースカクテルを楽しんでいる。
北ゆかりのメンバーは得に酒に強いらしい。
酒に負けず劣らずカウンター席の威圧感も半端ない気がしたし、スノウ、ホワイト、少し空けてフィガロ、オズに挟まれているオーエンは無表情でオレンジピールが入ったフィナンシェを齧っていた。
多分、彼の視界には目の前のシャイロックとフィナンシェしか入ってないだろう。
因みにオーエンの飲んでるカクテルもディサリータというまあまあ強いカクテルだ。
以前好奇心で買ったカクテルの図鑑をシャイロックが興味を持ってくれて、一緒に眺めてからbarのカクテルの種類も更に増えた。
「(アーサーとカインも一緒に見たりして…楽しかったなー)」
今夜は城での職務があるからと不在なのは残念ではあるが、今日は楽しもうと扉を潜る。
「こんばんは!」
「賢者様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました。今宵はゆっくりお楽しみ下さい。」
「ありがとうございます、皆さんも楽しんでいるみたいで良かったです。」
ニッコリと笑うシャイロック、スノウ、ホワイトやフィガロとオズも軽く挨拶してくれた。
シャイロックにブラッディ・ブルを頼むとホロ酔いでビリヤードをしているブラッドリーとムルが「呼んだか?」「呼んだー?」と反応した。
クスクスとシャイロックと笑う。
「賢者様は暢気で良いよね。僕は今すぐ部屋に帰りたいし右も左も見たくないのに、賢者様には僕が楽しそうに見えてるんだ。悪い事したわけでもないのに見張られてる僕を嘲笑うんだね、その目玉必要ないんじゃない?」
「そう言わずに、今日はオーエンにプレゼントがあるんです。」
そう言いながらオーエンとフィガロの間に座らせてもらう。
オーエンは少し拗ねつつも、賢者が出した小箱を見つめる。
お酒が入っているせいか、少し角が取れたような眼差しにやっぱり綺麗だなあと思う。
「それ?なに?」
「和菓子です。」
和菓子、という言葉にオーエン以外は首を傾げる。
「もちもち?」
「今日はモチモチと、フワフワとカリカリです。頑張って作りましたよ。」
オーエンに見えるように小箱を開けると残りのフィナンシェを口に放り込みながら興味深そうに見つめている。
中身はモチモチのみたらし団子、京都名物『生八つ橋』、生クリーム入りの大福、琥珀糖。
因みに八つ橋はもっちり銀河麦と多分これは小豆、シナモンシュガーで作った。白餡があれば練り切りも作れたのだが。
見た事の無い品にオーエンは勿論、シャイロック、スノウ、ホワイトもフィガロやオズも興味を示した。
「それでですね、オーエンが僕とのゲームに勝ったら、これ全部あげます。」
「は?」
「せっかくですから、オーエンと遊びたいなと思って。しりとりっていう、ちょっとした言葉のゲームです。」
シャイロックが作ってくれたブラッディ・ブルを飲む。
この世界は材料が特殊だけれど基本的には見覚えある物が多いし、料理自体も洋食に似ている。
ブラッディ・ブルを作るにも檸檬は此方が、トマトは此方が、ビーフブイヨンはこの肉の方が…と、シャイロックとネロと試行錯誤したのもまた良い思い出だ。
「尻取り?へぇ‥賢者様の尻をもげば良いの?良いよ?」
「待ってください、違います。先ずはジャンケンしましょう、逃げませんよね、オーエン?」
「良い度胸だね賢者様。僕と仲良くなりたいの、良いよ?」
こうして威圧感あるカウンターで威圧感あるメンバーに囲まれながら、ホロ酔い同士のしりとりが始まった。
「先ずジャンケンですが、これがグー。」
「殴りやすそう。」
「これがチョキ。」
「目を潰しやすそうだね。」
「これがパー。」
「賢者様の暢気な頭を鷲掴みにしてあげようか。」
「そんな物騒なもんじゃ無いです…」
ジャンケンのルールを説明し、オーエンが先攻になった。
「次はしりとりのルールですが『しりとり』の『り』から始まる言葉を先攻のオーエンが言います。ただし同じ言葉や『ん』で終わる言葉は敗けです。例えば『しりとり』『リヴァイアサン』は駄目、あと呪文も無しです。『しりとり』『陸』『クアーレ・モリト』とか言われたら洒落になりませんので。」
「そん間抜けな使い方するわけ無いでしょ、僕を何だと思ってるの。」
「ふふっ」とシャイロックとフィガロが笑った。
こうしてオーエンとの『しりとり』が始まった。
「り…………………り?」
オーエンは初っぱなで考えている。
そう、オーエンはちょっと物の例えが変わっているから正しい言葉が思うほど浮かんでこないのだ。
「…理不尽…あっ…」
おわり
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07:17
バレンタインチョコを食べちゃった話(カイオエ)
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「ただい…ま…」
夜の9時。
空に煌々と大いなる厄災が輝く中、城から帰ってきて部屋の扉を開けたカインは自分のベッドの上を凝視する。
なけなしの冷静さで手に持っていたネロお手製のサンドイッチとクリームスープのカップ、パルミジャーノチーズのミニパスタが乗ったプレートを落とす事はなかった。
「ぁ…騎士様、おかえり。遅かったねぇ‥ぼく、待ちくたびれちゃった。」
ベッドの上を占領している白い魔法使いは、コートもスーツの上着も脱いで随分寛いでいる。
傍には今朝まで残り23粒は残っていた筈のチョコレートの空箱と、机には小さなミニボトルとグラス。
「はぁ‥‥色々聞きたいんだが、取り敢えず‥酒は飲んでるよな?」
「うん、ちょっとだけ。」
「そうか。そこの空箱の中身は…」
「騎士様が中々帰ってこないから食べちゃった。」
「…俺の記憶違いでなければ、その箱の中身は一週間前のバレンタインにお前が俺にくれた物で毎朝俺が一粒ずつ大事に食べてる物だった筈なんだが。」
「美味しかった。」
ベッドの上でクスクスと笑うオーエンに溜め息をつきながら、机の上にプレートを置く。
「騎士様…怒ったの‥?」
「怒っちゃいないが、全部食わなくても良いだろ…」
すっかり油断しているオーエンの上に覆い被さると、少し潤んだ瞳が揺れる。
「だって、あげたのに残ってたから…騎士様、甘いの食べないし…要らないのかなって…」
「お前がくれたものだから毎日一粒ずつ大事に食べてたんだ。」
ちう、と優しく唇を吸うとオーエンは困ったように視線を逸らした。
「騎士様が、帰ってこないから…お酒飲んでたけど、何か欲しくて…チョコレート、あったから、ぼく…」
「オーエン」
カインは、甘い香りの残るオーエンの指先を軽く口に含み
「どうしてくれるんだ、明日からの俺の楽しみは?」
カリッと歯を立てた。
「っ………だって……」
「だって、じゃない。」
「‥でも…」
「…。」
不安気に迷う瞳をじっと見つめる。
「オーエン、俺の、楽しみは?」
酔ってるせいか指を噛まれたまま、子供の様に縮こまって困っている可愛い恋人を安心させるように撫でる。
「騎士様…」
「何だ?」
「………ぁ、あーん…っていうの、する…?」
精一杯の可愛い恋人の申し出に、カインは一つ頷いた。
おわり
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