04/18の日記

21:11
オーエン愛され
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午前2時16分

魔法舎に住まう魔法使い達の個人情報を纏めた診療記録に似たものを纏め終えたフィガロは晩酌の一時をウイスキーの入ったグラスを揺らしながら楽しんでいた。

森の何処かで鳴く梟の声に耳を澄ませているとガチャっと扉が開く。




朝。

「フィガロ先生、おはようございます。朝食が……」


そう言いながらフィガロの部屋を訪ねたルチルは目の前の光景に「あら」と小さく呟いた。

そして続いて現れたミチルはルチルが止める前に見てしまった光景に間も無く悲鳴に似た声を上げたのだった。


「おい、なんだ!?」


「煩いんですけど…」


まず食堂から駆けつけたブラッドリーと近くの部屋から出てきたミスラがルチルとミチルのいるフィガロの部屋を覗く。

ベッドの上で困ったような顔をしたフィガロ。

そして同じベッドで寝ているオーエン。

これだけでも十分破壊力があるが、問題は格好である。

フィガロは上半身裸、寝ているオーエンは大きめのシャツを一枚着ただけの状態。

窓から射し込む光にさらされた白くすらりとした脚、丸まって寝ているせいでシャツの裾から僅かにのぞく下着、噛みつきたくなるような項…

ブラッドリーは呆然とし、居たたまれない声を上げた。

そんなブラッドリーの横でミスラは「はあぁ?!」と眉間を寄せて不機嫌全開の声を上げる。

「あなた爽やか青年人畜無害路線のふりしてケダモノも良いとこじゃないですか、自分より年下の魔法使い捕まえてあんなことそんなことしたんですか?言っときますけどその人こなれてそうに見えて無垢なんですよ?その幼気な体をあなた…許せません。オーエンは俺が一から十まで教えるつもりだったのに、」


「ち、違う違う!誤解だよ!?お、オーエン!オーエン!起きて!」

ゆさゆさと寝ているオーエンを起こそうとするも、オーエンは「んぅ…」と声を漏らしただけで熟睡している。

「可哀想なオーエン、ケダモノに好き勝手されて…人の良さそうな顔してるから騙されたんですね。だからさっさと俺のものになってれば良かったのに…」

ミスラはベッドに歩み寄って、眠るオーエンの頬を指先で擽る。

「ま、待てよ。きっと何か事情がある筈だ、幾らなんでもフィガロがオーエンをどうこうするか…?」

「どんな事情があったらお互い裸同然で同じベッドに寝るんですか?」

オーエンを薄い毛布の上から抱き抱えるようにしてミスラは吐き捨てた。

「いや、だから誤解なんだよ…昨日ちょっと晩酌してたら急にオーエンが入ってきて……えーっと…」

「フィガロ先生…」

「フィガロ先生…」

「…あー…」

ルチル、ミチル、ブラッドリーの切ない声の後にミスラが「ケダモノ」と吐き捨てた。

「違うってばぁ…オーエン起こしてよ、聞けばわかるから…」

言われてブラッドリーがオーエンを揺する。

「おい!オーエン、起きろ!」

起こそうにも手と目のやり場に困る。

側ではミスラの圧も凄い。

オーエンは眠気眼のトロンとした表情をしつつ、ブラッドリーに腕を伸ばして囁いた。

「終わったら起こして」と。

「終わったらって…なに言って、」

そう言いかけたブラッドリーは自分の状況が面倒臭い事になってるのではと気付く。

端から見れば今、自分はオーエンに抱きつかれたように見えた筈だ。

そしてオーエンの台詞。

確信犯。


恐る恐る視線をずらす。

フィガロの生温い目。

間も無くアルシムする気満々のミスラ。

いつの間にか駆け付けていたスノウとホワイト。

そして無表情のネロ。

「取り敢えず、ポッシデオ」

「赦しません、アルシム」

「お仕置きじゃ」「ノスコムニア」

「朝から良い度胸だなブラッド………アドノディスオムニス!!!」



この日ブラッドリーは全力でくしゃみした。

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21:10
先ずは温もりに触れる事から。
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ベッドの上に腰かけて、先ずはそっと指先に触れる。

たったそれだけの仕草にさえ、ピクリと肩まで震える様子が愛しい。

自分より年上過ぎるというかもうご先祖様と子孫くらいの差がある魔法使いの彼。

強さこそ申し分ないが、他人との関わりや温もりというものに触れる事に関しては子供同然なのだ。

魔法使いとして最も畏れられる北の国の魔法使いは、そういう一面があるとは思っていた。

ただオーエンに関しては特更にそういう誰かと共に触れ合った経験が無く、幼少期の記憶に至っては彼さえも知らないという。

700年ほど生きた中で、一部の記憶を失くし、気付いた時から一人で生きてきたオーエンを思うと…

今、自分の隣で戸惑いがちに瞳を揺らしている幼子のような姿を抱き締めたくなる。

「オーエン。」

「なに…?」

「もっと、くっつきたい。」

「…うん…?」

返事はしても、オーエンはどうしたら良いのだろうという風にカインを見つめた。

「おいで。」

「…子供扱いして、馬鹿にしてるだろ…」

「してない。ただ、俺から行っても良いけど…俺も好きな奴と一緒にいる訳だから、その、押し倒しちまうかも知れないけど……良いか?」

「……」

オーエンは目の前で大好きなお菓子を食べられた子供のような、ちょっと泣きそうな顔をした。

「やっぱり馬鹿にしてるだろ…酷い、騎士様のケダモノ…双子先生に言いつけてやる…」

そう言いながら恐る恐るカインの腕の中に身を寄せた。

少し震えているその身体を、壊さないようにしっかりと抱き締めた。

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