04/13の日記
14:47
目覚める迷子
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「私の匂いがする。」
大いなる厄災が照らす空に髪を靡かせながら、先程まで紳士に化けていた男『ノーヴァ』はオーエンをじっと見つめる。
姿は変われど、あれは確かに以前出会った事のある男だった。
ミスラが驚くほどには魔力が強い、なのにその存在はその時まで知られる事はなかった。
ニコラスを唆して利用した男だ。
以前出会った時は確かにミスラが火山口に落とした筈の男は、今確かに目の前に存在している。
オーエンは細心の警戒をしつつ、睨み付ける。
「最悪。寝れなくなったらどうしてくれるの?クーレ・メミニ」
オーエンが口にするとノーヴァの動きが止まる。
しかしノーヴァは何もなかったかのように「そうか」と呟いてオーエンに笑みを浮かべた。
「お前…あの時の子供か。」
「は?子供…?」
「そうだ…暗い、寒い、冷たい夜の事だ、お前は死んだ体で泣いていた。」
「暗い…寒い…?何を言ってるの…?」
ひゅっ、とオーエンが息を呑む。
ざわざわと胸の奥が引っ掛かれるような心地がする。
『こういう事』は自分の得意分野の筈なのに。
「なんだ、忘れてしまったのか?それとも思い出したくないのか…まあ良い。もう何百年も前だ…お前は北国の町に住んでいた。」
ノーヴァは物語を読むようにゆったりと語り出す。
「魔法使いの父親と魔法使いの母親、あの頃は古くから伝わる血統の魔法使いが沢山存在していた…お前は両親の血を確かに受け継いで生まれた純血種、今で言えば貴重な古代種だな。
慎ましく、幸せそうに暮らしていたお前。
だがある日、国同士の大きな戦争で父親が死に、今度は人間と魔法使いの戦争で町は戦禍に巻かれ、お前の母親も死んだ。
そうしてお前も死んだ。」
目を見開くオーエンの手をノーヴァはそっと掴んで引き寄せる。
「可哀想に、幼いお前は大事な絵本を抱き締めて、一人で死んでいった。暗い、冷たい、湿った土の中へ、」
「あ…」
オーエンの脳裏に走馬灯のような記憶が走った。
『良い子にしてて、此処に居て。』
「誰も近付かない茨の森の雪と氷に覆われた地で、お前を見つけたのは私だ。
死んだ体で、お前は自分の死を受け入れられず、其処に残ってしまったんだ。恐い、寒い、冷たい、痛い、寂しい…一人ぼっちにしないで、騎士様、タスケテ、と。
だから私が力を与えた。」
「…嘘だ、」
「嘘じゃない、考えてみろ。お前は何故ケルベロスを捕まえられた?魔法使いと言えど地獄という死後の世界と空間を繋ぎ、其処の番犬を捕まえるなど出来はしない。
死は人にも魔法使いにも生きとし生けるもの達に平等の存在、それを従わせる事など出来はしない。だがお前は私が死体に月の力を与えた特別、お前は…私の力によって動く生きた死体だ。」
オーエンの瞳から感情が消える。
「アルシム」
激しい風と冷たい刃がオーエンからノーヴァを引き離すように襲いかかった。
「まったく…何をのんびりお喋りしているんですか。」
ミスラはオーエンを見るが、直ぐに異変に気付いて片腕に抱くように支える。
「ノーヴァ、あなた…この人に何を言ったんですか?あんまり刺激しないでください、面倒くさいんで。」
「私は真実を教えただけ。オーエン、私と共に来い。そうすればお前の魂を返してやろう。」
「僕の…魂…?」
「お前の魂の一部はあの時、私が貰ったままだ。それを返してやる、それとも…また一人ぼっちになりたいか?暗く冷たい土の中に還りたいか?」
オーエンの瞳が揺らぐ。
「アルシム」
「今日は邪魔が多い、またいづれ。」
優雅に一礼して、ノーヴァは姿を消した。
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14:21
お疲れ様、オーエンちゃん(スノウ、ホワイトとオーエン)
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アルシム
ヴォクスノク
ポッシデオ
『うわあぁぁっ!!』
呪文と悲鳴と地響きと。
全く有り難くもない四重奏と共に、その日の魔法舍は朝を迎えた。
…とは言っても、こんな朝は特に珍しくはない。
アルシムとヴォクスノクか
クアーレ・モリト(クーレ・メミニ)とアルシムか
そこに時々アドノポテンスムが混ざって、ヴォクスノクかノスコムニアが共演する事になるのか
それだけの違いだ。
今日は珍しくポッシデオがいたなあ
そんな事を意識の片隅に浮かべて、オーエンは浮上しかけた意識を再び微睡みの奥へ沈めた。
『…………、………、………、…………!』
どれくらいの時間が経ったのか、何か聴こえた気がして目を開ける。
小さなノックと呼び掛ける声は賢者のものだ。
普段ノスコムニアの声と共に盛大に起こされる事の多いオーエンにとっては、賢者の生ぬるいノックや声など小鳥の囀りにも満たない。
「(そんなんじゃ僕は起きてあげないよ、可哀想な賢者様。)」
呼び掛けを無視して、オーエンは布団をかぶり直す。
自分の匂いは落ち着く。
ふかふかのベッドに柔らかい寝巻きのシャツが心地好くて、つい枕に頬擦りしてしまう。
「賢者ちゃん、そのくらいではオーエンは起きんよ。」
「オーエンちゃんはこれくらいせんとな。」
全く有り難くない声(二回目)
あ、と思った時にはノスコムニアの声と共にドアが盛大に開かれていた。
反射的に上半身を起こした状態でオーエンは侵入者を睨む。
「おはよう、オーエンちゃん。」
「ごめんね、オーエンちゃん。」
双子は一瞬で青年の姿へ変わると、ニッコリと笑って床に膝をつく。
ベッドに座った状態のオーエンと目線が合うように。
「最悪、何なの…」
フイッと顔を背けて入り口付近に佇んでいる賢者を睨めば、目の前のホワイトがオーエンの頬にそっと手を添えて自分達の方へ向かせた。
「オーエンちゃん、我らお願いがあるんだけどな。」
「是非、お願い聞いてほしいなあ。」
「……やだ、絶対やだ。どうせ碌な事じゃないでしょ。」
「まあ、取り敢えず賢者ちゃんの話を聞いてあげて?」
ベッドの上に腰掛け直したホワイトに肩を抱かれて、足元の方にはスノウが腰掛けた。
せめてベッドから足を下ろしていれば脱走出来たものを、と布団の中で温かい両足を少し恨めしく思う。
「言うだけ言ってみなよ、絶対に聞いてやらないけど。」
賢者の話はこうだ。
今日の任務に行く予定だったミスラがルチルと少々喧嘩になって、虫の居所もよろしくなかったミスラが暴れた。
ルチルでは当然ながら止められず聞き付けたオズとフィガロに戦闘不能にされたのだとか。
「それで、ミスラの代わりにとなるとオーエンしかいなくて…ですね…お願いします!任務に協力してください!」
「そんな馬鹿みたいな理由で僕が行くわけないでしょ。僕じゃなくてもブラッドリーとか、それこそフィガロで良いじゃない。僕は行かないよ。」
馬鹿馬鹿しいとばかりに起こしていた上半身をベッドに倒そうとしたが、背中に添えられたホワイトの腕に再び起こされた。
「フィガロは留守番じゃ、我らとオズがこの任務に行くでの。ミスラちゃんの治療もあるし、若い子達の事も見ていて貰わねば。」
「ブラッドリーはネロとクロエとラスティカと年に数回しかない魔法使いの市に昨夜から出発してしもうたし。」
「シャイロックとムルはファウストと東に行っとるし、ヒースクリフとシノはブランシェット家に所用で出掛けておる。」
「カインとアーサーは今日は城内勤務じゃし、他の子達では今回の任務は少々難しい。それなりに魔力が必要となるかも知れんし、魔力と経験とかから言うと我らとオズとオーエンちゃんしかおらんのじゃ。」
スノウとホワイトにオズまで。
心の底から嫌だと叫びたいオーエンだったが
「オーエンちゃん、お着替えしようか」というスノウの言葉と共に修行着に魔法で着替えさせられては、もう固まる事しか出来なかった。
仕方無さそうに笑うホワイトに頭を撫でられながら抱えあげられて、オーエンは強制的に連れ出されていった。
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14:19
愛されたがりは愛されている(カイオエ)
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オーエンには傷が出ている時の記憶が無い、そんな彼は賢者様やヒースやシノから情報を得ていた。
そうして気付かされたのは傷の自分が思いの外受け入れられている事。
カインによく懐き、純粋で、素直に想いを伝えられている事。
カインも戸惑いながらも頭を撫でたり、笑っている事。
胸の内がモヤモヤした。
そうして気付いた、自分の事も見て欲しいと。
もっと、もっと…
撫でて。
笑って。
素直になりきれない、この感情の名前も知らない
そんな僕の、この手を握って。
僕にも教えてよ
僕の知らないところで仲間外れにしないで
騎士様だけは、側にいてよ
「傷の僕ばかり見ないで…ちゃんと…僕の事も見てよ…」
ありったけの不器用な気持ちを伝えようと出した自分の声は思っていた以上に小さくて、情けないくらいに震えていた
でも騎士様は、カインは…ちゃんと僕の声を聞き取ってくれて
痛いくらいの力で抱き締められた
生まれて初めての、僕自身の言葉は
拙くて、臆病で、小さくて…
今までのどの言葉より素直だった
想いを通じてから初めて「一緒に寝ないか」と誘われた時、オーエンは猫じゃらしを見つめる子猫の様な顔をした。
その少し無防備で、あどけない表情で「うん」と頷かれた時は堪らない胸のくすぐったさを感じたものだ。
ずっと見ていたい、愛しい恋人を抱き締めたい衝動にかられる。
そのすぐ側からバリッボリッと骨でも噛み砕いてるんじゃないかと思える音と何とも言えない視線さえなければ。
ミスラは隠すつもりも全くありませんよと言わんばかりの視線をカインにぶつける。
「ヘえ…オーエンと一緒に寝るんですか。楽しそうですね、俺も参加しようかな。お泊まり会とかいうやつでしょ?」
「お、お泊まり会では無いんだが…いや、合ってるのか…?」
「眠れない俺の目の前で貴方達がどこまで熟睡出来るのか見ものですね。」
「こりゃ、ミスラちゃん。寂しいからって恋人の二人を邪魔しちゃいかんぞ。」
「オーエンちゃん取られて寂しいのはわかるけれども、邪魔してはいかん。」
「はあ?別に寂しくなんかないですよ。ただ中途半端な恋愛ごときでオーエンが弱くなったら困るので見極めるだけです。」
「俺は本気だ。それだけは言わせてもらう。」
カインは真っ直ぐな視線をミスラへ向ける。
「へぇ…どうですかね。貴方はそこそこ恋愛経験があってお手の物でしょうが、オーエンは違います。そういう所だけは俺と同じで純真無垢です。」
ミスラは慣れた手付きでオーエンの横髪を耳にかけた。
「なぁに?」
「ベタベタが付きそうだったので。」
「そう?」
カインの目の前で当たり前のようにオーエンの髪に触れたミスラと当たり前のように任せているオーエンに、カインは負けじとオーエンの頬に手を添える。
そして、そっと自分の方を向かせるとチュッとオーエンの口元に吸い付いた。
「カイン…?」
キョトンとしたオーエンの肌が淡く赤みを増した。
「俺以外の男を見ちゃ駄目だぞ、オーエン?」
「…うん。」
その晩、
オーエンと二人きりになる筈だったカインの部屋に、問答無用で本当にミスラはやって来た。
オズとフィガロとルチルとブラッドリーを連れ、絵画になった双子までもを引っ提げて。
終わり
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