03/06の日記

03:37
不器用なアピール(ミスラ→オーエン、カイオエ未満))
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※傷オエ多め、一部モブ


「街だか山だか知りませんけど、早くしないと吹っ飛びますよ。まぁ、俺はどうでも良いですが。」

ミスラの言葉に賢者を始め一同は俯いた。

事の発端はこうだ。

夢の森から少し離れた所、森の延長線のような場所に魔物が出るのだと。

特に厄災の光が増す時には暴れまわり、近隣の村人や旅人は夜もおちおち眠れない。

時には家畜を食われたり、庭先にその無惨な姿が晒されているのだと。

依頼を受けて現場に向かったのは人当たりの良いルチル、最近ランタンの炎を上手く扱えるようになったリケ、剣の腕がたつカイン、戦力的な面と獣と話せるオーエン、中和剤として道連れにされるネロ。

結果としては上手くいった、筈だった。

気持ちの良いものではなかった。

早い話、依頼してきた村人達は夢の森の毒を悪用して力を手に入れようと企んでいたり、墓場の宝石を金に変えたり、あろうことかその骨さえも呪術目的の連中に売っていたのだ。

近隣の生き物を自作自演の為に不必要に殺したりもした。

つまり血生臭く罰当たりな事を繰り返した結果、様々な負の念と欲の念に夢の森の毒と厄災の力が作用して人でも獣でもない化物が生まれてしまったと言う事だ。

それを退治して帰路につこうとした途中に事は起きた。

魔法使い達の力を見た村人達が襲ってきたのだ。

見目麗しく、強い魔法使い。

利用するにも金にするにも方法は幾らでもある、そういう事だった。


しかし、相手が低俗で欲の塊のような人間でも賢者の魔法使いとしては迂闊に殺す訳にはいかない。

ルチルとリケは相手が人間と言う事で思うように動けず、ネロに任せた。

カインは剣の柄で最低限の攻撃をしながら辺りを見回す。

元々人間にも容赦の無いオーエンは人間達に攻撃をしようとしていた。

「いけませんオーエン!相手は人間です!」

叫ぶリケにオーエンは「だから何?」とトランクを開きかける。

「止せオーエン!」

カインの声に一瞬、オーエンの動きが止まった。


以前ケルベロスに食われかけたカインの姿が脳裏を過ったのだ。

隙が否応なしに出来てしまった。

強く頭を殴られたオーエンは何とか呪文を唱えると、カイン達を遠くへ飛ばして気を失ってしまった。


カイン達は急いで魔法舎に行き、事情を説明する。

そして冒頭に至る。

「すまない…俺が呼び止めたせいだ…」

俯くカインにミスラが溜め息をつく。

「全く、つまらない人間なんかに情なんかかけるから…まあオーエンの場合、好き放題されても拘束されても大丈夫だと思いますけど…自由になった時には軽くその辺一帯が吹っ飛ぶでしょうね。」

「ミスラちゃん、オーエンちゃんを助けに行くの手伝ってくれんかのう?ミスラちゃんがいたら何とかなると思うんじゃが…」

「はあ、良いですよ。今回はルチルも助かってますし、借りは早く返しときたいんで。カイン、行きますよ。場所は何処です?」

「あの、ミスラさん!私も…!」

「ルチルは駄目です、他も来ないで下さい。俺とカインだけで十分です。」

有無を言わせぬ迫力を見せた後、ミスラの空間魔法が展開されてカインと共に消えていった。



「ミスラちゃん、オーエンちゃんが心配なんじゃろうな。」

「何やかんやで可愛がってるもんね。」

「もしかしたらオーエンちゃんが辺りを吹っ飛ばす前にミスラちゃんが吹っ飛ばしちゃうかも。」

物騒な内容も気になったが、今はオーエンの無事を祈るしかなかった。



暗い、狭い小屋の中で、何人かの村人に囲まれて、オーエンは泣いていた。

「恐い…騎士様…恐いよ…」

厄災の傷の方が出てしまったのだ。

『なんだコイツ、随分雰囲気が変わってねえか?』

『頭強く殴りすぎたんじゃねえだろうな』

『大丈夫だろ、北の魔法使いオーエンは死なねえって噂だ。大人しい方が都合が良い。』

『それじゃあ取り敢えず、商品チェックだ。』

男達がオーエンのシャツを肌蹴させ、幾つもの手が白い肌を撫で回す。

『すげえ、本当に男か?』

『ひんやりしてて、吸い付くようで、滑らか…陶器みてぇだ。こりゃ高値がつくぜ。』

『目は左右で違うんだな、ガーネットとトパーズみたいだ。綺麗だなあ…』

「やだ、こわい、こわい…騎士様…騎士様…」

蚊の鳴くような声で呟きながらオーエンは身を竦める。

その時「おじゃまします」と言う声と共に小屋の扉が蹴破られた。

燃えるような赤い髪とは反対に、凍てつく深い湖のようなエメラルドの瞳がその場を見据えていた。


「おじさん…?」

小さく口にしたオーエンに「おじさんじゃないです、此方に来てください」と言いながら、ミスラは人間達を視線だけで制止した。

おどおどとミスラの側にやって来たオーエンに自分の上着を掛け、ごく普通に小屋を出る。

「アルシム」

その呪文を呟いて。

大きな竜巻のような風が小屋を吹き崩し、中の人間達の悲鳴さえも呑み込んだ。

「ミスラ!オーエン!大丈夫か!?」

少ししてカインと共に憲兵隊が駆けつけ、村人達は拘束された。

「騎士様!」

「小屋の中に何人かいますよ、死んでるかも知れませんが。小屋が崩れるなんて、バチが当たったんですかね。これで貸し借り無しですよ、オーエ……」

ミスラが呟いて振り向くと「騎士様、騎士様…」とオーエンはカインに抱きついていた。

「あ、あー…えっと、オーエン怪我とかはないか?」

「うん!騎士様、来てくれてありがとう!騎士様、頭、撫でてほしい…」

「あ、ああ…よしよし…」

「ちょっとオーエン、俺にありがとうは無いんですか?此方においで、俺がナデナデしてあげます。」

「おじさん、ありがとう。でも僕、ナデナデは騎士様が良い…」

ミスラの恨みがましい視線をビシバシ受けながら、カインはオーエンの頭を撫でたのであった。



おわり

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