08/30の日記

14:19
三日月、やらかす
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梅雨の景趣による雨と雨上がりが繰り返される中、三日月は部屋の中から庭を眺めていた。

今は雨が降っていて薄暗く、雨特有の空気に満たされている。

三日月にしては珍しく顔を曇らせていて、瞳の三日月も寂しげで…

端から見ればどうしたのだろうという風だが、生憎と本丸内は静かだ。

第一部隊は手練れと遅めに来た大太刀と中堅で玉集めと演練へ。

第二部隊は錬度の差を無くした中堅達で少し長い遠征へ。

第三部隊は未だ唯一の槍である蜻蛉切、岩融と巴の薙刀にあまり出陣出来ていなかった短刀、脇差、太刀で遠征へ。

第四部隊は主に新刃と短刀で遠征だ。

本丸も少しずつ刀が増えてきた為、四つの部隊では中々全振りを満遍なくとはいかない。

出陣をさせるなら錬度の差を考えねばならないし、期間限定の出陣でも滞在任務や達成率を考えればどうしても初期に来た刀達に任される。

だからこそ第一部隊は主力であり、手練れ以外で其処に入れる刀は精々一振りか二振り…それも大太刀や薙刀という広範囲の即戦力になり得る刀が主だ。

第二部隊は検非違使対策の為に錬度が同等の刀達で組まれる、つまり自分と同等の錬度の刀が居なければ入れない。

遠征の場合にのみ、此方も一振りか二振り入れれば良い方だ。

となれば、あとはもう第三第四部隊での機会を待つしかないが此方も中々錬度をあげる機会がない新刃と短刀に決まる事が多い。

戦場で錬度を上げる事が不利な刀達は遠征である程度上げていくしかない。

つまり、三日月の出陣も遠征も中々無いのだった。

つい先月、第一部隊で隊長を久しぶりにしたものの…やはり入れ替りが激しく新たな期間限定の出陣が開始された為に三日月の出番は終わった。

やはり手練れが部隊を占め、後から来た大太刀と薙刀が同行する。

ついこの間まで三日月と言えば審神者の注目の的であったというのに、今は天下五剣の三日月よりも新たな薙刀や大太刀に注目がいっている。

「(俺も大太刀か薙刀であったらなぁ…)」

三日月は最近そう考えるようになった。

そんな事を思いながらふと見た先に、雨に濡れる物干し竿が映る。

三日月の目が僅かに見開かれた。





「たっ、大変です!」

そう叫びながら前田は廊下を駆けた。

向かった先は初期刀である清光の部屋だ。

「失礼します!」という言葉と共に開けられた部屋では清光と安定がお茶を飲んでいた。

「前田が慌てるなんて珍しいね、どうしたの?」

清光と安定が柔らかい笑みを浮かべる。

やはり二人はよく似てるなあと思いながら、前田は本題を思い出した。

「大変なんです、三日月さんが物干し竿で!とにかく稽古場に来てください!」


3振りが稽古場に近付くなり長谷部の声や幾振りかの声が響いていた。

「三日月宗近、参る」「馬鹿を言うな!」「止めなって三日月さん!」「無理があるよ」「危ないです」と、手合わせとは少し違う声。

見てみれば三日月は物干し竿の先に自分の本体を縄で括りつけて振りかざしていた。

「何やってんの三日月ィィィィッ!!!!」




「で、物干し竿に本体括りつけたら大太刀になると思ったわけ?」

初期刀も御世話係も、これしきの事で主は呼ばない。

呼ばずとも主には解るからだ。

清光か長谷部が叫ぶという事は、誰かが何かやらかした時だけ……

そして、その声によって『誰が』かも。



広間で三日月は事情を話した。

「良い案だと思ったのだがな…俺は太刀で形も三日月の様だから物干し竿にでも括りつければ大太刀か薙刀くらいには為れるやもと…」

「あのね三日月。縄で括りつけただけの長物を太刀の力で振ったりなんてしたら、多分本体はふっ飛んでくよ。」

物干し竿に本人によって括りつけられた三日月宗近を解く清光を、三日月は残念そうに見つめたのだった。

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14:12
銀時がブラック本丸に行ったら2
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一見お化け屋敷のような本丸に押し込まれて、付喪神に卵粥を作ってから30分。

清光以外に三日月、鶴丸、鳴狐と手入れを済ませた銀時は本丸の案内をされていた。


「此処の並びは俺達それぞれの部屋で、あっちがさっきの手入れ部屋、その隣の大部屋というか倉庫みたいな場所が資材置き場だよ。」

トタトタと嬉しそうに前を歩いて説明しているのは一番最初に会った加州清光という付喪神、この本丸の一番の古株で

銀時の隣をトコトコと歩くのが鳴狐という付喪神と『お供の狐』と言うらしい、三日月と鶴丸は残っている刀達に銀時の事を伝えに行ってくれた。

「最後は此処『審神者部屋』此処が銀さんのお仕事する部屋だよ、詳しい事は後でコンノスケっていう管狐が教えてくれると思うよ。」

「管狐ねぇ…ま、大体解ったよ。サンキューな。」

「さん、きゅう?」

清光と鳴狐が首を傾げる。

「銀さん様!さんきゅう、とは何でございますか?三と九で何か起こるのですか!?」

「あー…サンキューってのは、ありがとよって意味だ。」

「「「さんきゅう…」」」

二人と一匹が不思議そうに呟く姿は微笑ましい。


その時、

銀時の木刀が浮かび上がり、光った。

直ぐ様、清光と鳴狐が銀時の前に立つ。

パァァァッと光が強まり、その光が収まると一人の黒タイツのオッサンが現れた。


「我が名は洞爺湖。我が主、銀時よ。これは一体どういう事だ。」

「洞爺湖仙人じゃねーか。何で出てきたんだ?」

「何やら不思議な力に引き寄せられて出てこざるを得なかったのだ、家が半壊したぞ。」

「ねぇ、我が主って…銀さんの事…?」

清光が洞爺湖を見上げると、洞爺湖は後退った。

「なななな何で付喪神が居るのだ!?二人も居る!?」

「二人どころか付喪神しか居ねーけどな。」

溜め息をつきながら銀時は頭を掻く。

「銀さん様は銀時様とおっしゃるのですね!」

「良い名前だね。」

お供と鳴狐が話す傍らで、清光は洞爺湖をジーッと見ていた。

「あー…別に言っても良かったんだけど、政府の奴に名前言うなって言われてたからよ。」

「銀時!ちょっ…この子めっちゃ見てくるんだけど何とかしてくれない!?ねぇ!銀時!聞いているのか!?我が主、坂田銀時!」

「ウルセェェェェッ!!」

銀時の蹴りが洞爺湖の太股にヒットした。

「イッタアアアアアアアアアアアアッ!!!」

「テメッ 今わざとフルネーム言ったろ!ざけんなよ爺!」

二人で言い合っていると銀時の着物がクイッと引っ張られる。

「ねぇ、坂田銀時って銀さんの事?この刀?の主なの?俺より大事?俺より可愛い?」

不安気な清光の紅い目と合う。

「大事っつーか…可愛いさで言えばオメーの方がダントツで可愛いわ、よく使ってっけど木刀のオッサンだからね。」

「……銀さんは…俺の事、愛してくれる?あ、刀としてって意味で…」

清光だけでなく鳴狐の視線も感じる。

「あんま、よくは わかんねーけど…俺も受けたからには大事にするぜ?」

銀時が笑うと清光と鳴狐は嬉しそうに笑った。


「あー………えーっと…あのぉ、清光君と鳴狐君。」

銀時の呼び掛けに二振りとお供が見上げてくる。

「なぁに?」「なに?」「何でございましょう?」

「…出来れば、あの髭が言った事は忘れてくんない?」

「銀さんの名前の事?神隠しとかの事を気にしてるの?大丈夫だよ、名前くらいじゃ隠せないし、そんな事しないよ。」

話が早くて助かる。

「え、マジで?」

「うん。要心の為に政府の方は煩く言ってるだけだと思うし、まあ詳しい個人情報は言わない方が良いと思うけど。」

「銀さん様、ご安心下さいませ。我ら付喪神ですがそのような悪戯いたしませんよ。しかし加州殿の仰有る通り、詳細は言わないに越した事はありませぬ。ね、鳴狐。」

「うん。」

ニコッと目元を和らげて、鳴狐は手で狐を作った。


……………

「あー……くたびれたぜ…」

夜、10時を過ぎてやっと風呂に入れた。

あの後、政府からやって来たという管狐『こんのすけ』に内容を聞きつつ銀時は鶴丸を残して清光と鳴狐と三日月に遠征を頼んだ。

といっても三振なので短時間遠征を何回か行ってもらわねばならなかったが、他に残った刀達の手入れの為だと了承してくれた。

四振りで行かせようと思ったが未だ会ってすらいない刀達の事を考えると誰かを残すべきだと、清光が真っ先に立候補したが…

錬度が高い刀を行かせた方が少しでも長い遠征や資材が色々ある場所へ行けるという事で、一番錬度が低い鶴丸が残る事になった。

清光は少し寂しそうだったが『頼むぜ、初期刀』と撫でれば、嬉しそうに頷いた。

遠征は良いとして、問題は未だある。

『さて!じゃあ俺達は何をするんだ?』

鶴丸が明るく尋ねるが、銀時は今一つの表情で本丸を見渡した。

『何だかなあ…』

『如何されました主様?』

『どうしたのだ銀と…いや我が主。』

『いやもう銀時で良いよ、お前思いっきりフルネーム言っただろーが。』

『スミマセンでした…で、どうしたのだ。』

『いや、何かこう…前の連中と同じ部屋を使うってのがよぉ、二人目はともかく最初の奴と同じってのが嫌なんだよね。何か色んな意味で恐いというか、気色わりぃし、俺スタンドとかNGだから。スタンド屋敷に住みたくねぇ。』

『そうですねぇ…一応、本丸の環境は主様の霊力で保たれますから直に浄化されていくと思いますよ?大丈夫かと思われますが、ほら現に厚かった雲が晴れつつありますし。』

『晴れつつあるって…超曇りだけどね。というか気持ちの問題なんだよね、これ綺麗な本丸だったら超晴れると思うんだけど。』

『では改築致しますか?』

『改築?出来んの?』

『金子が必要になりますが、主様のお給料なら大丈夫かと。今回は前借りという事で手配致しましょう!』

銀時は意気揚々と告げる管狐を両手で掴むと同じ目線まで持ち上げた。

『こんのすけさんよぉ、其処は…政府様の御慈悲をもぎ取って貰わねーと困るぜ?』

『御慈悲…ですか?』

『俺は朝っぱらから急に訳わかんねー政府によって、嫁も仲間も置いて泣く泣く此処にやって来たわけだ。はるばる別の世界から、この本丸の為に、政府と馬鹿な審神者の尻拭いをしに来てやってるわけ。この改築は、その為に必要な事なわけだ。』

『…つまり…』

『改築費用くらい政府が出せ。』

『ええっ!?流石にその、改築費は中々に無理かと…あ!お食事とか物品なら多少融通は利きますよ!』

『こんのすけさんよぉ、俺は今、改築の話をしてるんだけど。』

『うぅ…でも…』

『そうか、なら仕方ねーな。今回の審神者になるって件はナシだ。』

『そんなあ!困りますよぅ!主様がいないと此処は…』

『君、いなくなるのか?』

今まで黙っていた鶴丸が銀時の袖を引く。

その表情が悲しげで、辞めるつもりは勿論無いのだが銀時としては申し訳なくなった。

『いや、あのな…』改築費を出させる為の芝居だ、と銀時が小声で伝えようとしたその時…

『出て行きたければ勝手に出て行けば良いじゃないですか、斬る手間が省けますし結構ですよ。』

驚いて声の方を見ると、いかにもTHE ピンク!という感じの人物が不機嫌そうに立っていた。

『おい、何かピンクの姑みたいなの出てきたけど誰だあれ。』

小声で尋ねる銀時に『宗三左文字、打刀だ』と伝えながら鶴丸は少し前に出た。

『宗三、動いて大丈夫なのか?』

『鶴丸国永…貴方も大概物好きですねぇ?そんな人間、さっさと斬ってしまえば良いものを…審神者なんて録でもない何処ぞの馬の骨と同じです、貴方が斬らないなら僕が斬ります。』

『宗三……』

刀に手をやる鶴丸を銀時が制する。

『何です?斬られる準備が出来ました?』

『うるせー馬鹿野郎、さっきから好き勝手言いやがって姑かテメーは。穏やかそうなピンク色しやがって一瞬モモレンジャーかと思っただろうが。

それとも何か?目指してんのか?あのヒーローだかヒロインだか解らんねーモモレンジャーになりてーのか?何故か強制的にピンク色着せられたり、地味に一人だけ衣装が違ったり…微妙に浮くモモレンジャーの気持ちがオメーに解んのかこのヤロー。』

『知りませんけど、それが何です?』

『テメー…人の長台詞をたった一言で…お前みたいな喋らないキャラが漫画家を泣かせんだぞ。』

『はあ…もう喋らなくて結構です、死んでください。』

宗三が刀を構える。

その時、

『にいさま…』と小さな声がした。

少し離れた場所に、小さな人物が立っている。

『お小夜!?出てきてはいけません!』

宗三は急いで駆け寄る。

『…何か子供出てきたけど。』

『あれは小夜左文字、宗三の弟だ…重傷でろくに動けない筈なのに…』

鶴丸が苦しそうに呟いた。

『ブルーレンジャーはモモレンジャーの弟だったか。ちょっと行ってくるわ。』

『お、おい主!』

二人に近づく銀時に鶴丸も後を追った。

近づいて更に解ったのは、宗三左文字も怪我をしている事。

小夜左文字は立ってるのもやっと、という風だ。

『おいモモレンジャー。取り敢えずソイツ、先に手入れすんぞ。』

『近寄らないで下さい!』

宗三は小夜を庇うように、ボロボロの袈裟に隠した。

『手入れなんてする気は無いくせに!解っているんですよ!お小夜を折らせはしません!』

『にいさま……』

銀時は一つ息つく。

『そうかい、じゃあ仕方ねーな…鶴君、モモレンジャーを抑えろ。俺は青レンジャーの手入れをしてくる。』

『……わかった。』

少し心配そうに銀時と宗三を見比べた後、鶴丸は宗三を抑える。

そんなに力は入れずとも、宗三は鶴丸には敵わない。

錬度も、刀種的にも、何より宗三自身が弱っているのだから。

殆んど動けない小夜は銀時を黙って見つめた。

『手入れ、行くぞ。』

新八や神楽と接するように、頭をそっと撫でる。

『…僕は、折れても…いいんです…でも、にいさまを…助けて、ください…資源が足りないなら…これを、解かして…』

『お小夜っ…!放して下さい鶴丸国永!小夜が、小夜っ…!』

『場所、変えるか。』

『…はい。』

銀時が抱き上げても小夜は大人しくしていた。

自分の名を呼ぶ声を聞きながら、ほんの少し口元を緩めて。



『ブルーレンジャーってのは青色で目立つタイプじゃないんだけど頭が良いんだよ、頭脳タイプ。赤と黄色は大概ヤンチャでピンクは紅一点。あいつらは普段は突っ走って行くけど、いざって時にはやっぱ冷静なブルーレンジャーが頼りになる。

結構強いし、んで大体は5人で一つな訳よ。昔は赤・黄・桃・青・緑とか、けどだんだん緑より黒が増えて黒はイケメンとかクールでカッコつけが定番なわけ。

狡くね?後から出てきて緑のポジション浚っていったからね。ミドレンジャー絶対自棄酒してたと思うよ、絶対屋台の親父に愚痴ってたね。

多分、戦闘に紛れて黒の足とか蹴ってたと思うね。』



小夜左文字は布団に横たわりながら、ブルーレンジャーの話を聞いていた。

ギリギリ短刀分の資源はあったので手入れは出来たが、手伝い札というものが無いのでこんのすけと洞爺湖に買いに行かせている処だ。

『金子が必要になりますが…』と恐る恐る口にするこんのすけには『前借り頼むわ』と頼んだ。

そうして銀時がミドレンジャーとブラックの因縁の対決からモモレンジャーと後からやって来たヒロインホワイトの女の戦いについて語った頃には小夜の手入れ時間は終わった。



『あるじー!帰ってきたよー!』

トタトタとやって来たのは清光だ。

『あ、小夜!良かった、手入れして貰ったんだね!』

『はい…れんじゃあ?の話を聞いていました。みどれんじゃあ?が捨て身の…すらい、でんぐ?をして足の小指を打ったのが…痛そうでした。』

『…よく解んないけど治ったなら良かった!あるじ、小夜も見て見て!』

清光が持ってきたのは資材と手伝い札、小判。

『資材は未だ足りないけど一回目は大成功だよ!次は何処に行ったら良い?』

『ありがとな、ちっと休憩してから決めようぜ。こんのすけと洞爺湖が帰って来たらモモレンジャー手入れするわ。清光、鶴丸にモモレンジャー連れて来るように伝えてくれっか?』

『ももれんじゃあ…?取り敢えず鶴丸さんに言えば良いんだね、呼んでくる!』

少しして騒がしいモモレンジャーこと宗三の声がしてきた。

『早く!もっと早く歩けないのですか!お小夜は本当に無事なんでしょうね!?』

『もー…大丈夫だってば、すっかり元気になってたよ。暴れたら三日月も歩きにくいよ。』

『僕が暴れたところでこの天下五剣に支障があるものですか!さあ早く!早く小夜の元へ急いで下さい!』

スッと手入れ部屋の戸が開くと清光が『銀さん、連れてきたよ!大変だったけど』と苦笑いした。

そして手入れ部屋に入ってきた宗三はまさかの三日月に背負われて…と言うより三日月を馬の如く乗りこなしていた。

『にいさま!』

『ああ…小夜!三日月宗近!降ろしてください!小夜!』

脚が肌蹴るのも構わず、じゃじゃ馬姫の様な宗三を降ろした三日月は『はっはっは、鶴丸の気持ちが少しわかった気がするな』と側の椅子に腰かけた。

『鶴丸が何かあったのか?』

手入れ道具を整える銀時に清光が答えた。

『鶴丸さんは宗三が暴れまわって廊下でバテちゃってたよ、鳴狐が一緒にいるから大丈夫。『驚きだぜ』って言って笑ってた。』

こんのすけと洞爺湖が資源を持ち帰り、小夜の説得もあって漸く宗三も手入れを受けた。

姑並みに煩かったけれど。

『ちょっと、もう少し優しく扱えないんですか?やっぱり人間は雑ですね、貴方不器用でしょう。

まあ今回は小夜の事もありますし、小夜が言うので手入れを受けただけです。僕は貴方を信じたわけではありませんからね。

所詮、篭の鳥の僕はあくまでも取り敢えず今回だけ‥あ、そんなに油は要りませんよ。』

『だああああ!うるせーなオメーは!姑になったりモモレンジャーになったり鳥になったり何目指してんの!』

『‥ももれんじゃあは貴方が勝手に言ったんでしょう。教えてあげてるんじゃないですか、感謝してください。さあ早く、優しくしてください。お小夜が待っています。』

『本当に口が減らねーな。モモレンジャーなんてもんじゃねーよ、バーゲンで戦うオバチャンだよ。』


手入れを終えた刀を鞘にしまって、宗三に渡す。

『何とでも言ってください。さて…まあ及第点ですね、僕が教えたので当然ですが。』

仏頂面と小言のコンボで手入れをされた刀を確認する宗三だが、一瞬、少しだけ笑った様な気がした。


『あの、ごめんなさい、兄様が…でも、こんなに元気な兄様、久しぶりに見た。ありがとう、主。兄様も、本当は嬉しいんだと思う。』

『本当、ブルーレンジャーは偉いな。』

銀時が小夜に笑うと小夜も少し笑った。


『ちょっと聞いてるんですか!小夜を変な目で見たら許しませんよ!』


手入れ部屋から響く賑やかな声を新な刀が静かに聞いていた。



宗三の手入れを済ませ、少し遅くなった昼食は簡単に握り飯と味噌汁と卵焼きを作った。甘いやつ。

やはりというか、小夜も宗三も食べるのは初めてらしく。

握り飯を手に不思議そうな顔をしていたが、恐る恐る口にすると夢中で食べていた。

そんな食事の後に茶を飲み、再び遠征にいってくれているのは清光達と鶴丸と宗三の5振り。

鶴丸は4振りの中では錬度は低かったが、小夜は早くに顕現したものの錬度に合わない戦場に出されて重傷となった。

当時の審神者にとって短刀は名前さえ興味がない、居ようが居まいが歯牙にもかけない。

資材がないだとか、太刀や反発する刀を黙らせる為に思い出したように解かした。

小夜は動けなくなってからは宗三が部屋の押し入れに寝かせていたし、自分が部屋にいる時は懐に抱き締めていた。

だから小夜は未だ錬度が低い。


宗三は打刀で短刀ほど不利は少ない、だから遠征と出陣でそれなりに錬度があった。


今回の参加は意外だったが、本人曰く

『まあ、小夜も僕も世話にはなりましたし。握り飯とか言うのも美味しかったので、遠征くらい行きますよ。』

だそうだ。


銀時は残った小夜と洞爺湖とこんのすけで本丸に残る刀を確認する。

『短刀は僕と愛染、脇差はにっかりさんがいます。』

『へえ…にっこりさんって可愛い名前だな。』

『あの、にっかりです。にっかり青江、大脇差なんですが…実はずっと眠っています。

それから打刀は加州さん、鳴狐、兄様だけです。

太刀は三日月さんと鶴丸さん、山伏さん。山伏さんは刀のままで、たしか加州さんが持っててくれてます。

それから大太刀が祢々切丸さん、槍の蜻蛉切さん…今いる刀は、以上です。』

『主様、他の刀に会いに参りましょう!未だ重傷でいる刀や眠っているにっかり青江の事も気になります。』

『そうだな、手入れ出来る奴からでも手入れしていかねーと駄目になっちまうからな。』

『でも主、にっかりさんと山伏さんはともかく愛染、蜻蛉切さん、祢々切丸さんは暫く見てないんだ…』

『我なら此処に居る。』

突如聞こえた声

『(このパターンは)』と銀時が振り見ると

居た。居たけども。

『おい洞爺湖、ゲームはしても良いけど召喚獣を勝手に呼ぶんじゃねーよ。びっくりすんだろーが。』

パンっと銀時は洞爺湖の頭を叩いた。

『イッタ!何もしてないし!ゲームは母ちゃんが父ちゃんと喧嘩した時にAボタン連打し過ぎて修理中なんだよ!』

『ほんとさぁ、夫婦喧嘩でAボタン連打し過ぎるって何の夫婦喧嘩してんの?なに、お前んちゲームで決着つけてんの?』

『いやよく解んないけどAボタン押したら母ちゃん目からビーム出るんだよ、連打してMAXになったらエキサイトイリュージョンエクストラフラッシュって言う大技が出るんだって。

目と口から協力な光線が出て頭部の毛根のみを永久脱毛並みにしちゃうっていう‥』

『ヤベーよ、こえーよ、どうなってんだお前の母ちゃん…嫌がらせでしかねーよ。Bはどうなんの?』

『Bはガードだね、押したら片腕でガードする。連打でMAXになったら伝説の必殺ガード技が出る…その名もフレグランス・ヘル。

これは相手に向かって背を向け、あえて隙を作り、
相手を油断させる。そして油断した隙に全力で放屁するという大技だ…これをくらった相手はもうGホイホイに捕らわれたGと同じだ。』

『やべーな、バハムートも流石に敵わねーよ。』

『因みに強化アイテムとしては

NIN・NIKU/NIRA/KI・MUTI/HORUMON/YAKINIKU/GYOUZA等がある。夫婦喧嘩しそうな前日辺りはこれらのアイテムを使うのもお勧めだがHORUMONとYAKINIKUはスペシャルアイテムだから気を付けろ。

補助アイテム《財布の中身》《旦那の給料》《家計簿》を使った方が良い…そして状況に応じて回復アイテム《SEI・ROGAN》《ドラッグオブガスター》《保険証》も忘れずに。』

『なんつー大技だ…とんでもねー。んで、結局あの召喚獣はどっから来たんだ?スンマセン、あの、どちらのゲームの召喚獣さんですかね?此処ちょっと召喚獣は出てこない世界なんで名前とゲーム会社もしくはゲーム名とか解ったら調べるんで…』

『主様!なっがい現実逃避でしたね!刀剣男士を困らせ過ぎですよ!』

『はあ!?刀剣男士!?』

『主、大太刀の祢々切丸さんです。』

『‥祢々切丸さんですって…言われても、え、刀?ゲームの攻略本見なきゃ手に入らないような桁違いの召喚獣とかじゃなくて?』

改めて見ても、銀時達が居る部屋の鴨居にさえ顔が隠れる程の大男に流石の銀時も息を呑む。

隣の洞爺湖が牛蒡に見える。

『もう済んだのか?』

『え?』

『何やら呪文を唱えていたようだが…邪魔しては悪いと思い、此処で待たせてもらった。変わった言葉の呪文だったな。』

スッと身を屈めて顔を表した大男は、男前だった。


同じ髭なのに洞爺湖とは月とスッポンだ。

『あ、ああ…えっと、気にしなくて良いんで。どうせどうでも良い呪文なんで。』

混乱していたとはいえ、発言の仕方からしてこんな如何にも真面目そうな神様の前で長々と…

『(エキサイトイリュージョンエクストラフラッシュって何!フレグランス・ヘルって何だよ!ただババアの放屁じゃねーか!恥ずかしいよ!申し訳ねーよ!)』

『それで、新しい審神者とはお主であろう。手入れを頼みたいのだが…資源があまり無いのだろう?我も出陣なり遠征なり協力する、なので愛染と蜻蛉切を頼みたい。』

祢々切丸は廊下に座ると頭を下げた。

『あ、ああ!手入れ!手入れね!遠征は今行ってもらってっから…てか、あんたは手入れいいのか。』

『我は此処に遅く来た、他の者達に比べれば怪我も少ない。それに、殆んど使われなかったからな…どうも我は失敗、らしい。』

『失敗?』

『此処に顕現して、本丸の空気が妙だと思った。すれ違う刀達も殆んど居らず、我を案内してくれていた刀も稀に見かける刀も怪我をしていて表情も暗かった。

審神者に聞けば出陣してるから当然だと、お前は気にしなくて良いと言われて納得してしまったのだ。確かに戦うなら怪我もするだろう、今それだけ戦況が厳しいのだと…

だが、この本丸が…あの審神者がおかしいのだと直に解った。』

『何があった。』

『顕現してから我は三日月や鶴丸達と遠征ばかり行かされていた。出陣するのは怪我をしたままの短刀や脇差が殆んどで、代わってやりたかった。

だが審神者に言っても相手にされず、他の刀に言うも《命令だから》と。遠征中に三日月が教えてくれたのは、あの審神者は名のある刀や珍しい刀には殆んど出陣させないという事だった。

そういう人間だから言っても無駄、下手に機嫌を損ねると誰が傷付くかも解らぬと。』

銀時は静かに茶を飲む。

『ある日、やっと出陣の指示が出た。その頃には随分と刀が減ってしまっていたが…我はこの図体だ、薙ぐ事しか出来ずとも盾になる事は出来る。

初陣で隊長、あの日は1つの小さな守袋を必ずつけろと渡されて言う通りにした。あれが破壊を防ぐ物だとも知らなかった、そして出陣先で検非違使が現れた。

遠征と連結で錬度と力は其なりについていたが、検非違使と云う存在を我は知らなかった…一期一振の助言で撤退したが、元々重傷だった刀が二振消えた。あとの二振も重傷で、一期一振と何とか連れて帰った。

審神者は撤退した事に怒った。

《何の為に隊長にして御守まで持たせたと思ってんだ!隊長が重傷になれば強制帰還が発動する!万一も考えて御守も持たせたってのに、検非違使が落とす刀を持って来なきゃ意味ねーだろう!お前は折れる事は無い、他は気にしなくて良い!行ってこい!》

『その時の重傷になった刀が僕と厚でした。でも、厚はあの日のうちに、折られました。』

小夜が湯飲みをギュッと握った。

『小夜左文字は宗三左文字が上手く隠したが…厚藤四郎は其れが出来なかった。我が報告は一人で良いと言うと一期一振は自分も行くと言ってな…当時は知らなかったが折られていった短刀の殆んどは一期一振の弟だった。

限界だったのだろう、審神者の言葉に我が否を言うより早く…一期一振は審神者に食って掛かった。』


《あなたは!何度私の弟を殺せば気が済むんだ!何度私から奪えば気が済む!》

《主に向かって良い度胸だな一期一振!短刀なんざ何処にでも落ちてんだろ!大体、弱いくせに数ばっか多くて連結材料にしても大して役にも立たねえ!


おまけに刀装は無駄、直ぐ重傷、役立たずで代えは幾らでもあんのに何でわざわざ資材使って手入れなんかするかよ!欲しくもねえのに何処の戦場でも鍛刀でもホイホイ出てくるしよ!

んなもん使い捨て以外に何に使うんだ!?》

《きっ‥さまああああああああああああああっ!赦さない!赦さない!赦さない!赦さない!赦さない!よくもっ…私の弟達を返せえええええええええええっ!!!!》


『目の前で一期一振と審神者が取っ組み合っているのに、我は動けなかった。初めて、というのが正しいかは解らんが…部屋に充ちた其までの穢れに加え、おぞましい程に残酷で黒く穢れきった言霊。

そして一期一振の憎悪に満ちた言霊と、どす黒い、殺意が渦巻いて、あんな‥穢れた塊を刀の時代にも見た事は無かった。

怪異を払う刀ともあろう我が情けない話だが…しかし一期一振が折れた弟の名残であろう刀を振りかざした時、やっと体が動いた。

動いたと言うより、これ以上、穢れて欲しくなかった。あの時の一期一振なら確実に審神者を仕留めただろうが、そうすれば一期一振も折れた其の刀も霊(たましい)の奥底まで救い用の無い事になってしまう気がしてな…

だが我が止めたせいで厚藤四郎と僅かに残っていた重傷の藤四郎達が…折られてしまった。』


《離しなさい!殺してやる!あの審神者は!絶対に!弟達と同じ目に合わせてやる!離せ離せ離せえええええええええええええ!!!!》

《一期一振!これ以上は駄目だ!弟達は我が探してくる!今度こそ共に護れば良い!もっともっと出陣して、強くなれば今度こそ護れる!》

だから、どうか、これ以上は………

『あの時、一期一振は聞き入れようとしてくれた。あらゆる痛みに堪えようとしてくれていた…だが審神者は我らから離れるとこう言った。』


《ったく!使えねー刀剣男士だな!もっと早く助けろ!自分の主人が殺されかけてるってのにぼさっとしやがって!神格が高い大太刀で強いって言うからわざわざ選んでやったのに失敗だ!見かけ倒しの木偶の坊が!こんなもんが奉納されるような刀とはな!》


『我をどう言おうと構わんが、我が刀剣男士になれる程に付喪神として在れるのは…其まで我を思い、語り、伝えてくれた多くの民が居たからだ。

その民までを侮辱する事は許せぬ…だが一期一振が堪えている、我まで荒むわけにはいかぬと言い聞かせた。』


《主、我をどう言おうと勝手だが我を語り継いでくれた民まで悪く言うのはやめてくれ。一期一振は我が連れていく。》

そのまま、部屋を出ようとしたが

《待て、主に手を出してただで済ますわけにはいかん。祢々切丸、そのまま一期一振を抑えていろ。俺は少し用を済ませてくる、何、直ぐに済む。其処から動くなよ、命令に楯突いたらお前達のせいで他の奴等がどうなっても知らんぞ。》

『そうして審神者は5分ほどして帰ってきた、部屋に戻れと。嫌な予感はした、部屋に帰ってきた審神者を見た時…我の目には黒く塗り潰した人形にしか見えなかったからな。

穢れが穢れを食って、成長しているような…壺の中で毒虫が喰らい合うあれによく似ていた。

あの審神者はもう穢れの壺でしかなくなっていた。


そして粟田口の子らの部屋で一期一振は座っていた。渦巻く気配は無い、ただ静かだった。

そして《すみません。どうやら此処までのようです…今度はどうか、止めないで下され。》

もう駄目だと思った。違うものになってしまった。

違うものにしてしまった。


《一期一振、すまない…もう止めはせぬ。》

一期一振は真っ黒な目で静かに笑うと、一礼して審神者の部屋の方へ歩いていった。』






………………途中までギャグだったんだけどな。一期と祢々が可哀想な事になってしまった。

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