08/05の日記

05:20
銀時がブラック本丸に行ったら。
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『時間軸が違うとは云え、一つの歴史の世界にある攘夷戦争…其処で名を馳せた貴方なら、ブラック本丸の刀剣男士達を良い方向へ導けるのではと…』

朝、珍しく起きていた銀時の元に現れた時の政府と名乗る役人に銀時は辟易していた。

何故なら銀魂はもう原作最終回したし、電子書籍で単行本最終巻が読める程度には時間が経っているからだ。

メンバーとも無事クランクインを祝い、其々が其々の日常に戻って随分経った今…

急に『別の時間軸にある世界では歴史を守る戦争が起こっている』

『本来なら審神者という霊力者と刀の付喪神が戦いにあたるのだが、中には職を放棄し刀剣達に理不尽な無体を働く者が出てきている』

大分少なくはなったが未だあるブラック本丸では刀剣達が負の気を孕み、歴史を守るどころか…新しい審神者さえも受け付けない事態になっている。


「それである程度腕が立って、霊力あって、刀の扱いに慣れてる奴をって言われてもねぇ……」

銀時は耳をほじりながら呟く。

「いやー俺は無理っすね。」

「強制執行はしたくありません、お願いいたします。」

「いや何処のジャイアン?何、強制執行って。要するにどっかの馬鹿とお宅らの尻拭いじゃねーか、此方はやっと嫁とクランクインして仲良く生活してるわけ。百歩譲ってこの世界なら未だしも、別の世界?ふざけんな、人任せも大概にしろってんだ。」


「……因みに金額は毎月これくらいになります。伴侶の方、弟子のお二人に犬と家賃に光熱費、生活食料費…十分に払える金額かと思います。依頼と思って頂いて構いません。」


銀時は引き受けた。

伴侶こと高杉、弟子こと神楽と新八、お登勢に話をして……惜しまれる事なく見送られた。


ーーーーーー

流石は時の政府の役人、車ではなく移転シシテムとやらで銀時は速やかに本丸前まで連れていかれた。

本当に速やかだった。

給料は銀時の口座に入り、高杉が其処から家賃等を引き落として支払いをする。

銀時の荷物は取り敢えず木刀、下着、着物、救急箱、飴、酢昆布、固形石鹸………以上だ。

色々思う事はあったが、金の為だ、仕方ない。


それに頑張って無事帰ってきたら高杉が甘やかせてくれるって言った。


「んで、俺で3人目って書いてっけど前の審神者はどーしたのよ。」

「元凶である一人目は刀剣達に殺されました、二人目は普通の審神者でしたので…見兼ねたこんのすけが政府に救助を要請しました。」

「ヘえ?そういう事してくれんだ?」

「……こんのすけは中立の立場ですから…ですが、政府の者全てが其を速やかに聞き入れるとは限りません。」

「…」

「こんのすけは優しい、審神者と刀剣達のどちらの痛みも知っている。我々も、そんなこんのすけを見ているし…救われなかったブラック本丸の末路も見てきている…何度も。でも所詮、こんのすけも私達も下っ端なんです…真実を軽んじているのは、ほんの一部の上層部。」

だから、だから…私達は、探すのです。

探す事しか出来ないのです。


涙混じりの役人の声が、静かに響いた。


「ま、来たからにはしょうがねえ。金貰えるなら何でもやるのが万事屋だ。」


とは言ったものの…


『坂田様、大丈夫ですか。』

「いや…幽霊屋敷だとは思わなくて…俺、そういうのはNGなんで…」

『逃げないで下さい!幽霊屋敷に見えても違います!中には付喪神しか居ませんから!』

「こんな所に住んでる付喪神もう幽霊と一緒だろーが!人間に対する恨みだけで生きてる地縛霊だろ!?」

『地縛霊だなんて!大丈夫ですよ、貴方そういう旅館で働いてたじゃないですか!』


「じゃあオメーも来い!部屋まで連れてけ!」

『中にはこんのすけがします!大丈夫です!』

門の前で一悶着していると、フッと体が浮いた。

次の瞬間には門の中にいた。

門の向こうから『御武運を!』と声が聴こえた。

「オイィィィ!!!」



門の中に放置されて3分。

銀時は微動だにしなかった。

それは正面の縁側に紅い目の少年、いや青年が立っていたからだ。

少し長い髪を結わえて横に流した洋装の青年は見るからに傷だらけで、銀時をジッと見たまま動かない。

意を決して銀時は口を開く。

「…あのぉ…お兄さん此処の人?」

「…そうだよ。」

「あー…俺、今さっき此処に放り込まれたんだけど…どうすりゃ良いんですかね?あと、お兄さん、幽霊とかじゃないよね?」

「…幽霊?違うけど…似たようなものかも、付喪神だから。」

「…ぃ…いや付喪神なら良いんだよ。うん。んで、おたく怪我してっけど良かったら救急箱使うか?」

「きゅうきゅうばこ…?」

「消毒とか絆創膏とか包帯とかあるぜ?高杉が用意してっから充実してらぁ、流石俺の嫁だよ。」

「俺のは手入れじゃないと治らないよ。」

「手入れ?あ、付喪神って言ってたもんな…何の付喪神なわけ?」

「刀だよ、何も知らないの?」

「知らねーよ、知らねーのに放り込まれたわけよ。酷くね?つかちょっと其処に座って良い?」

銀時が縁側に近づくと、刀の付喪神と言う青年は少し場所を下がった。

「あー…それで、刀の付喪神?だから手入れじゃなきゃ治んないと。手入れなら出来るぜ、これでも侍だからな。」

「でも、資源が少ないから…俺に使うのは勿体無いよ。」

「資源?刀の手入れって粉と懐紙じゃねーの?」

「俺達の手入れは資源を研師に渡して、最後に審神者の霊力を貰うの。霊力がないと俺達は顕現できないから…」

「へー…んじゃあ取り敢えずオメーの手入れをして、資源?ってのを調達すっか。」

「遠征、だね。遠征くらいなら今から行くよ、俺。あんたが居れば移転装置も使えるし。」

すぐさま出掛けようとする青年に銀時は待ったをかける。

「手入れが先だバカヤロー、んな怪我したまま行かせるか。道具は何処だ?」

「……こっち…」

青年はキョトンとした面持ちで、銀時を手入れ部屋へ案内した。


「へー…良い刀じゃねーの。打刀か、割りと直刃だな。」

「うん。ちょっと扱いにくいよ、俺。でも俺なんかより良い刀は沢山いるから、あんたのお気に入りもきっと見つかるよ。」

「ばっかオメー、刀ってのは其々良いとこあんだよ。お前あれか、ちょっと面倒臭い系か?」

銀時は軽く言ったつもりだったが青年は「ごめんなさい…」と明らかに落ち込んでしまった。

「イヤイヤ!ちげぇって!あの、あれ、そんな真に受けなくて良いから!つーか、お前が刀の付喪神って事は…この刀がお前って事になんの?」

「‥うん、これが俺。この刀が傷付いたら俺の体も傷付くし、体が傷付いたら刀も傷付く。折れたら、この体も消える。人間で言うと死ぬって事。」

「はー…成る程、正に一心同体ってやつか。て事は、お前らの怪我を放ったらかしてた最初の審神者とやらは随分なクソ野郎だったってこった。」

「……お気に入りは大事にしてたよ…‥だから、こうやって手入れしてもらえるとは思わなかった。ありがと。」

へへ、と初めて笑った青年は幼さもあって可愛らしかった。

「良い顔で笑うじゃねーか。つか、オメー男だよな?」

「刀剣男士だもん、男だよ?……嫌いになった…?」

「オメーはそのマイナス思考をどうにかしろ。いや、その見た目でチ〇コついてんのかと思ったら不思議で…」

「なっ、もうっ!何て事言うんだよ!エッチ!」

「何だオメー、チ○コくらいで恥ずかしいのか?あ、つーか名前言ってなかったな。そうだな、何か本名は言うなって脇が酸っぱくなるくれぇ言われたからな。まあ、銀さんとでも呼べ。」

「金さん?」

「それは伝説の婆さんの事か?それとも金髪野郎の事か?ギ・ン・サ・ン、この世で最も格好よくて素敵な素晴らしいエクセレントビューティフルな主人公だ。OK?」

「……おーけー。」

「何だその間は…まあ良いや。銀さんな、銀さん。」

「うん、銀さん。俺は加州清光、清光って呼んでね。新撰組の沖田総司の刀だったんだよ。」

「……あ、そっちの新撰組か。ビビった、あのドS王子の事かと思ったぜ。」

「どえす?」

「あぁ、こっちの話だ。へえ、沖田総司の刀か。」

「うん。俺は池田屋で折れちゃったんだけど、まあ、その過去があるから今の俺がいるんだけどね。沖田君の刀はもう一振いたんだけど折れちゃって……他にもいろんな刀がいるから頃合いを見て紹介するよ。」

「その必要はないぞ、加州。」

ふと聞こえた声に振り向けば、青い狩衣の男と真っ白な男が居た。

二人とも笑ってはいるが、銀時には殺気が伝わっている。

「何ですかテメェら、ノックくらいしやがりなさい。」

「大事な仲間が連れ込まれたのが見えたのでな。返してもらえるか?」

「おいおい、人聞きわりぃ事言ってんじゃねーよ。なぁ清光君?」

「うん、俺は手入れをしてもらっただけだよ。」

すかさず説明する清光の手を白い男が引く。

「加州、君は優しすぎる。人間を簡単に受け入れちゃ駄目だ、君に生きろと言った大和守の言葉を忘れたのか?」

「鶴丸、大和守の事は触れてやるな。…なぁ加州、俺達はお前を失いたくないだけだ、他の皆のように…お前まで居なくならないでくれ。」

俯く加州の隣で銀時は耳をホジっていた。

「あのぉ、俺も今しがた放り込まれただけなんで細かい事は知らねーんだ。説明してくんない?」

「君に話す事はないな、君は出ていってくれれば良い。今なら見逃してやるよ。」

「見逃すだぁ?テメーはその白い着物に醤油と珈琲とカレーぶちまけてやろうか。あとそっちの兄ちゃんも他人事みてーな面してるがオメーも同罪だからな。鼻くそつけてやろうかアン?」

ドン引きする二人と「銀さん汚いよ…」と呟く清光。



「…と、まあそういうわけで。俺達は歴史を守る処か、主である筈の審神者の玩具でしかなかったわけだ。」

大まかに説明する鶴丸という刀は自傷気味に笑った。

「成る程ねえ…まあテメー等の事情は解ったけどよ、いつまでも今のままって訳にもいかねーだろ?このまま役目も果たさねーんじゃ、お役御免になっちまうぜ?」

「その時はその時よ。人の子の玩具となって、また失うくらいなら…」

「オメーはそれで良くても、他はどうかわかんねーよ。現にさっき言ってた大和何とか君は清光に生きろって言ったんだろ?消えちまったら終わりじゃねーか。」

銀時の言葉に部屋が静まりかえる。

「ま、取り敢えず…飯だ。」

「「「めし?」」」

「腹が減っては戦は出来ねー。つか俺、朝から食ってねーんだ。台所借りるぞ?」


そして、台所。

銀時は凄まじい早さで米を磨ぎ、煮詰めた。

「オメー等ずっと食ってねーってどうなってんだ!?材料あるでしょうが!誰も料理出来なかったのか!?」

清光はともかく、何となくついてきた二振り。

その珍しそうな視線に気付いた銀時が聞けば、食事という物をした事が無いと言う。

「俺達は食わなくても死ぬことが無いからな、食事は審神者だけがしていた。俺と鶴丸は審神者のお気に入りとやらだった故、たまに貰った事はある。皆が食えぬのに自分達ばかりと言うのは辛かった…だが、審神者の機嫌を損ねる訳にもいかぬ。」

銀時は小さく溜め息をつく。

隣で興味深く見詰めてくる清光、目が合えばニコッと笑う。

「もうちょっと煮込んだら食わせてやっからな」と言えば嬉しそうに頷いた。

「なあ、君が今作ってるのは何て言う料理なんだ?」

鶴丸も面白そうに見詰めてくる。

「取り敢えず粥だな。味噌と醤油と鰹節で米を煮て、最後に卵を入れる。」

しっかり柔らかくなった米のお陰で全体的にとろみが出てきた。

火を止めて、溶き卵を回し入れて蓋をする。

椀と匙を取りながら「一応聞くけど食いたい奴、手あげろー」と言えば清光と鶴丸が手を挙げた。

「そっちの何だっけ?三日月?は要らねーんだな?」

「……食べてみたい、だが…」

「食いてーなら食え、食うんだな?」

銀時が言うと三日月は小さく頷いた。


蓋を開けると卵がとろとろに広がっていて、良い感じの半熟だ。

それを大まかに混ぜて椀に入れると、良い匂いの湯気が立つ。

いただきます、と各々が銀時に習って粥を口に含むと後は夢中で食べていた。

ふと視線を感じて見ると、台所の入り口の方で肩に狐を乗せた清光と同じくらいの青年が立っていた。

「何だ、オメーも刀の付喪神か?」

銀時が聞けば、コクリと頷く。

「何やら良い匂いがしたので誰かが何か作っているのだと思いやって来ましたが…出遅れてしまいましたなぁ、鳴狐。」

「うん、鳴狐も食べたかった。」

「まだ残ってっから食うか?」

「…良いの…?」

「猫マンマみてーなもんだから、そっちの狐も食えるぜ。銀さんの飯は何でも美味いからな、ほらよ。」

銀時は鳴狐という青年と狐に粥をよそった。

「はぐ、はぐ…私にまで頂けるとは!美味しゅうございますね、鳴狐。」

「うん、美味しいね。」

ありがとう、と銀時に言うと鳴狐も夢中で食べた。







…………………という部分を書きたかっただけです。




こっちにアップしてなかったので。

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05:17
幻の音色
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本丸が二回目の梅雨を迎えて、もう夏も近いだろうという頃。

最初に加州清光の様子に違和感を覚えたのは一緒に畑当番をしていた小夜と青江だった。


この日の畑には清光・小夜・青江・同田貫・蜻蛉切がいて、近くの庭では掃除当番と洗濯当番が勤しんでいたのだが…

草むしりをしていた清光が、ふと手を止めて静かに立ち上がった。

「加州さん‥?」

隣で作業をしていた小夜と青江が顔をあげて清光を見るが、清光は黙ってじっと何処かを見ている。

青江は清光の視線の先を見やるが、ただ本丸の縁側があるだけで。

軒先の硝子の風鈴がカラン カラン、と鳴るだけだった。

「加州さん、大丈夫大丈夫ですか?」

小夜が清光の袴を引くと、ハッと清光が小夜を見る。

「小夜?何、どうかした?」

「‥加州さんが急に立ち上がったまま、呼んでも反応無くて、大丈夫かなって‥」

「フフフ、熱の余韻に浮かされたのかな?」

「もう、ニッカリはそういう言い方しない!って今更か。大丈夫、確かにちょっと暑くてボーッとしちゃってた。」

そんな会話をしていると収穫をしていた同田貫と蜻蛉切がやって来た。

「収穫、大体終わったぜ。」

「お三方の方は如何ですか?」

「うん、此方も丁度良い感じ。」

「日も強くなってきたし、そろそろ上がろうか。熱を体が持て余してしまう前に、ね。」


相変わらずの青江に苦笑いしながら畑を引き上げる5人、その一番後ろを歩いていた青江は静かに清光の背中を見つめた。

特に何も感じないし、見えない。

しかし、あの時の清光は

どこか呆けているような、驚いているような顔をしていた。


「(一体、何を見ていたのかな)」



その日から一週間が経つ頃、清光の様子がおかしいと色々な刀達が気にするようになった。

小夜の時と同様に、

ふとした瞬間にボーッとしたまま動かなかったり

話の最中に急に黙って何処かを見ていたり

一人で立ち尽くしていたり


少し不安そうな、どこか怯えたような



そんな様子から清光は出陣や遠征は勿論、内番も屋内で出来るものに限られた。

そんな時、清光は倒れた。

それは曇り空の、風が少し強い日。

雨が降る前に、と堀川と雨戸を閉めて回っていた時

カラン と、風が風鈴を揺らして、辺りに響いた。

其れを見つめた清光の髪を風が乱して

少し湿った空気が入り交じる

その時

『加州君、堀川君、お菓子とアールグレイっていうアイスティをいれてみたよ』

燭台切が茶菓子を持ってきた。

グラスの中の溶けかけた大小様々な氷が チリン カララン と鳴った

そこにパタ パタ と雨粒が雨戸を叩き出して、風に揺れる風鈴の音も交じる


清光の目の前に祇園祭のお囃子、家々に在る多種多様な風鈴、暑く蒸した風と交ざり合う浅葱が広がった。


加州清光の誇りであり、晴れ舞台であり

加州清光を死へと誘う、あの日の音色


そのまま清光は崩れるように倒れたのだ。


『加州さんっ!!』『加州君!』

堀川の声と、咄嗟に清光を支えた燭台切の落としたグラスと皿が割れる音に皆が集まった。

場は騒然としたが、初期からいる数振の行動は早かった。


まず小夜が清光の本体を持って、審神者の部屋へ走った。

愛染と前田と平野は手拭いや氷や水桶などを取りに行き、一期は清光を抱えて五虎退と清光の部屋へ行く。

心配する安定を始め、去年の夏以降に顕現した刀達は大広間で事情を聞いた。


加州清光という刀は池田屋で折れ、修復もできず、そのまま破棄された。

故に、現代には現存していない刀である。

その影響か、数多いる加州清光の中には自分の折れた日が近付くと具合を悪くしたりするものもいるらしい。


例えば大阪城で燃え尽きた刀であれば炎に過敏になる刀、逆に全く気にしない刀など。

これも一つの個性であり、大体は修行後に改善されるが拭いきれないものも在るという。


この本丸では清光がそれに該当したというわけだ。


「去年の今頃もこんな風に倒れて、具合悪い時があったんです。だから、この間様子がおかしかったのを見て心配してたんです…」

「去年は確か‥出陣して帰ってきた時でしたね。」

小夜に続いて一期が口を開く。

「少しずつ錬度も上がってきて無事に任務を終える事が出来たのですが、加州殿の様子がおかしかったのを覚えています。何やら上の空で、かと思えば何か怯えているような、今回のように何処か遠くを見ていて。」

「加州が去年倒れた時は主さんの所だったんだ。その時、俺は近侍だったんだけど急に加州が駆け込んできてさ…」

『主、怖い、怖いよ…』

『気付いたら、俺…彼処に居るんだ、池田屋に…あの人が…』

『どうしよう、俺…ちゃんと、此処に居るよね?主の刀だよね……?』

「そう言いながら泣き出して、あの時は驚いたぜ…その直ぐ後に寝込んじまって。」


「そういう事かい」

愛染の言葉に納得したように、青江は頷いた。

………………

「(…あれ…ここ、部屋…本丸の…)」

布団の中で目を覚ました清光は、どこかぼんやりとしたまま視線を巡らせる。

「やあ、起きたみたいだね。大丈夫かい?」

「…青江…?」

起き上がろうとする清光を青江が静かに制した。

「まだ無理しちゃ駄目だよ、大和守君に怒られちゃうからね。彼、心配してたよ。でも今は君の為に御飯を作ってるから、もう少し待ってね。」

「…うん。」

少し笑った清光に青江も笑った。

「君の事、聞いたよ。僕は夏以降に顕現したから知らなかったけど、話を聞いて納得したよ。君は、過去の景色を見ていたんだね。」

「…過去…うん、そう、過去。でも凄く現実的で、本当にあの日に戻ったみたいで…

出陣で池田屋に行くのは良いけど、急に自分だけ彼処に居て、あの日の音が沢山聴こえるんだ。

そして浅葱の羽織が鮮やかでさ。熱気とか、蒸し暑い風の匂い、鳴り響く家々の風鈴とか、お囃子とか…


青江は静かに相づちをうつ。

「俺はあの日に折れて捨てられた。でも後悔も未練も、恨み辛みも在る訳じゃないよ。それがあったから今の俺がいる、だけど…この時期に見る彼の場所は、どうしても怖いんだ。

俺が知ってる場所なのに、凄く、怖い……もし、付喪神にも彼岸の国があるのなら…それこそ連れていかれそうで…」

俺は本体が無いからさ

そう小さく呟いた清光の声はゾッとするほど静かだった。

「君は感受性が強いだけさ、過去を思い出すなんて誰でもある事…

それにどんな事を想い、感じるかは違って当たり前だし…君の晴れ舞台も、君の刀としての死も、今の君を形作る全てだ。

自分の晴れ舞台を誇っても良い、自分の死んだ場所を恐れたって良いさ。どのみち君には立派な主も居て、僕達も居るんだからね。

それさえ忘れなければ、何も怖い事はないよ。

君が見るそれらは、短くても君が刀として愛された素敵な思い出さ…僕は、羨ましいよ。」


そう言って笑った青江の声はとても優しくて

幻の中で静かに鳴り響く音色と交ざり合う


「(さっきまで怖かった筈なのに…怖く、ない…)」


記憶の奥で小さく鳴る音色に

今は耳を澄ませた





幻の音色




終わり

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