06/25の日記
00:14
織田組と信長の雪まつり
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ある日。
真っ白な雪が降り積もる中、長谷部と宗三と薬研の三振りは佇んでいた。
普段の内番着だけでは寒いので、しっかりと防寒はしているものの三振りの表情は決して楽しいものではない。
長谷部は目を据わらせているし、宗三は眉間に皺を寄せてメンチをきる感じになっている。
強いていうなら薬研だけが苦笑いしている風だ。
それもその筈
三振りの前には織田信長…
嘗ての主が立っているのだから。
「ふん、まさか貴様ら刀とこのような形で逢い見える事になろうとはな。付喪神と聞いたが、まっこと人の成りではないか。」
ちょび髭を撫でながら信長は面白そうに眺める。
「聞きました長谷部?相変わらずですよ、この髭。」
「全く…主命とはいえ、まさかこの男とこうして会う事になるとはな。」
嫌そうな顔でヒソヒソと嘗て自分の刀だった付喪神に言われて、信長は軽く傷付いたが『これは老いだ』と自分に言い聞かせた。
薬研を見れば自分になどもう見向きもせず、雪で団子を作っている。
「で、僕達はこの人と一体何をすれば良いんです?」
「何でもこの雪国特有の乗り物を試乗する事が今回の主命だ。過去、外の国の伝統的な乗り物として使われていたらしいが…雪の時期の移動手段と環境にも優しいという事で最近見直されているそうだ。」
「それが何でまた俺達と信長公なんだ?」
首を傾げる薬研に「都合上だ」と渋い顔の長谷部。
「まあ織田信長ならば他所の大和守が言ったように、本能寺から生き延びたとか不老不死になったとか逸話があるので歴史的にもギリギリセーフらしい。それに見ろ、こうして防寒着でいれば只の禿げかけた髭のオッサンだ。」
「確かに…これが信長だなんて思いませんねぇ」
「あとは機動と向き不向きを考慮した結果、俺達になったらしい。ではさっさとやってしまおう。」
随分長いこと放置されていた信長を交えて、四人は試乗する乗り物を眺めた。
「見るからに木造ですが、主の時代の自転車の様な取手ですねぇ?」
「ああ、しかし此れにはブレーキが無い。前に進行を操作する者が乗り、後ろに乗る奴が体重をかけてぶら下がるようにしながら止めるそうだ。」
「じゃあ俺や宗三は難しいんじゃ無いか?止めるどころか引きずられちまう。」
「良いじゃないですか、どうせ前に乗るのはあの髭です。転ぼうが怪我しようが知った事じゃありません。僕達の本体は主の手元、常に手入れをしてもらえる状態ですし。」
信長は思った。
「(わし…大丈夫かな…)」
「では手始めに、誰から行きます?僕から行きましょうか?」
「珍しいな宗三、良いのか?」
「良いですよ?あの髭が僕に全てを任せる覚悟があるのなら…ふふっ」
何よりお互いの信頼がなければいけない乗り物なのに、身の危険をストレートに感じた信長は薬研を指名した。
いざ、前方信長、後方薬研。
「んじゃあ取り敢えず前の方向操作が信長公で、俺がブレーキ?ってのをやればいいんだな?」
「ああ、スタートはお前が押しながら走って下り坂になったら後方に立って乗る。ブレーキをかける時に引き摺られる様な体制になって足でブレーキをかける。雪の上だから出来る事だが無茶はするな、無理だと思ったら手を離せばいい。」
シュミレーション動画も確認して、薬研はヤル気満々だ。
そして、
「じゃあ行くぜ信長公!!」
と、いう声と共にソリは凄まじいスピードで雪の坂を下って行った。
短刀の機動を知らなかった信長の悲鳴が響き渡った。
おわり
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