03/17の日記
15:12
夜食
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「お、夜食の匂いがすると思ったら加州だったか!」
厨の戸からヒョッコリ姿を現したのは鶴丸だった。
「鶴丸さんか、俺はこれが夕飯の代わり。どーしたの?」
清光は手元の鍋を見つつ尋ねる。
主の仕事を主命主命と勇んでいる刀が昨日から風邪で寝込んだので暇していた初期刀の清光が代わっていたのだ。
予め夕食は自分で用意すると言っているので、こうして夜中にでも作っている。
「そうか、なら丁度良い!」
鶴丸は清光の隣にやって来て手を合わせた。
「ちょっと分けてやっちゃくれないか!」
「…良いけど、こんなので良いの?」
清光が作っているのは粥、ではあるが創作料理だ。
米と絹ごし豆腐と鰹節を豆乳で煮て、少し醤油で味をつけただけ。
「豆腐の粥とは驚きじゃないか、美味そうな匂いだ!俺は君の創作料理、結構好きなんだ!それに、今回は連れもいてな!」
連れという言葉に首を傾げると、厨の戸からもう一人出てきた。
数日前に顕現した大太刀、祢々切丸だ。
「その…すまぬ。どうしても腹が空いて…」
「彼は今日が初めての内番だったんだが、未だ食事と此の体の感覚に慣れないらしい。この大きさで畑だったのに夕食も然程に進んでなくてな、さっき空腹で縁側で途方に暮れていたのさ。」
「あー…まあ解る気もするけどね。祢々切丸は大きいから他の刀…岩融や蜻蛉切とかくらいは食べた方が良いよ。食べ過ぎは駄目だけど、そのうち解るようになるから。」
「うむ、覚えておこう。」
清光が粥を大きめの器に寄って、刻んだ沢庵を散らすと祢々切丸の喉と腹が鳴った。
「熱いから気を付けてね。」
「ああ、いただく。」
レンゲでそっと掬うと豆乳で煮込まれた絹ごし豆腐と米がトロリとしていて、口に含むと柔らか。
少しの塩気のようなものは醤油と刻んだ沢庵だ。
柔らかさの中に沢庵の食感が食欲を増す。
時々に粥だけを、次は沢庵も、と祢々切丸の手はひたすら動いた。
「どうだい?うちの初期刀さんの料理は?」
「うむ…美味い、染み入るようだ…」
「そうだろう?」
そんな会話を聞きながら、清光も食す。
「ところで俺の分は無いのかい?」という鶴丸の声を聞かなかった事にして。
おしまい
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