03/19の日記
21:51
キョウカ様リクエスト(桂+銀時+高杉(盲目)ほのぼ の)
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「…来ちゃったよ、来ちまったよ。」
銀時は呟きながら駅に降りた。
駅と言っても人の居ない小さな駅で、どちらかと言えば周りに見える田畑の方がまだ人気がある。
「まさか本当に来る事になるとは俺も思わなかったものなぁ…でもさ、あれから偶々依頼なくて暇で一人だったら『ちょっと行ってみようかな』ってなるじゃん。仕方なくね?」
一人で言い訳する銀時に応える者は居ないが、山の何処かから鶯の鳴き声がして思わず顔を上げた。
広がる田畑に土の道、野菜など売る木造の小屋。
深い緑の山々にちらほらと映える淡い紅色と白色は桜だ。
見上げていく先の空は見事に青く、太陽さえ江戸で見るより輝いてみえた。
「おお、もう着いていたか銀時!」
改めて正面を見ると見知った顔が子供みたく手を振っている。
「来るつもりは無かったけどな、暇で気が向いたから来ただけだから。」
「嘘をつけ、俺は知ってるぞ?万事屋に態々休みを入れ、お前が出かける用意をしていた事をな。」
「はあ!?」
「リーダーと新八君の情報だ。最近ソワソワしていて聞いたら『田舎にちょっとな』などと言っていたそうではないか。」
実際その通りなのだが筒抜けで恥ずかしい銀時は「うるせー!さっさと客をもてなせ!」と促した。
「全く貴様といい高杉といい解りやすくて助かる。」
「そういや彼奴…留守番一人で大丈夫なのか?」
「ああ、これくらいの留守は問題ない。今頃キヨ殿と仲良くしているだろう。」
「え…先客いんの?俺行って大丈夫かよ?てか、仲良く?高杉が?」
「ああ、キヨ殿は殆ど家で住んでいるようなものだしな。高杉も気に入っている様子だ、なぁに気にする事はない。」
「いや気にするだろ!住み込みでそんな奴が居んの!?」
「行けば解る。ほら、アレが我が家だ。」
見た少し先、民家からは少しだけ離れた場所に平屋があった。
「へぇ…いい感じの家じゃねーの。」
「一見木造だが必要な部分は頑丈な素材で作られている。」
桂に案内されながら柵を開け、玄関を潜った。
玄関は引戸だが鍵は二重、左側に棚と真っ直ぐな廊下、突き当たりの右側奥に台所や風呂や厠、突き当たりを左に行くとリビングらしい。
「高杉、銀時が来たぞ。」
通されて少し気まずいながらも見てみれば、畳の広い部屋。
その奥の庭側に沿った窓辺の一部だけ床、其処に小さな机と椅子がある。
その椅子に座って高杉は目を閉じていた。
「彼処でよくおやつを食べる、陽当たりも良いしな。」
「へぇ…ん?」
ふと高杉の膝に黒い塊を見つけた。猫だ。
「猫飼ってんのか。」
「ああ、飼っているというか偶に遊びに来ては数日泊まって何処かに帰っていく。因みにアレがキヨ殿だ。」
スパン!と銀時は桂を叩いた。
「痛い!何をする銀時!」
「紛らわしい言い方すんじゃねーよ!住み込みで高杉と仲良くって猫じゃねぇか!!」
「勝手に勘違いしたのは貴様だろう破廉恥な!」
少々騒ぎ過ぎたようで、キシッと小さな椅子の軋む音に目をやると高杉が目を開けていた。
勿論、右目だけ。
しかし其の右目さえも見えていないのだと直ぐに思い出して、銀時は一瞬息を詰めた。
「何を騒いでいるかと思えば今度は俺に掛ける言葉を探しているらしいな、寂しがり屋の白夜叉殿は。」
ゆったりとした口調は相変わらずで、高杉は顔を銀時の方に向けた。
「其の辺りに突っ立ってんのか?」
焦点は合っていないが其処には確かに銀時が立っていた。
「よお、目が見えてねえ割には位置が解るんだな。」
「何となくだ、解りづらい時もある。ヅラ…は台所か。」
「ああ。」
「ならテメェで良い、そっちに座るから連れていけ。」
高杉が言う『そっち』は畳にある広めの机と座布団の場所だ。
銀時は椅子から立った高杉の手を掴むとゆっくりと促した。
いくら手加減なし問答無用の馴染みでも、目が見えない高杉に適当をかますほど冷たくはない。
「ククッ…そう構えなさんな。別に転んだって死にやしねェよ、毎日其処で飯食ってるしな。何となく場所は解る。」
「別に構えちゃいねぇけど、まあ…ちょっと気を付けただけだし?俺優しいからね。」
ニャア
「キヨ、どっか踏んだか…?」
座布団に座った高杉が周りに手をやり、探すとキヨという猫は高杉の膝に上がった。
「しっかりオメーに踏まれねぇとこついて来てたよ、賢いわ。」
銀時も適当に座る。
「打ち解けた様で何よりだな。さあ茶と菓子だ、今日は草餅だ。」
「お、いーねぇ!」
銀時のテンションが上がると桂が笑った。
「今日はお前が来るから草餅にしろとな、誰かさんからのリクエストだ。なあ、高杉?」
「フン…一体誰だかな。なぁ、キヨ?」
ニャア
茶を啜る高杉に小さく猫が鳴いた。
「で、ヅラ。ちゃんと入れたか?」
「ああ、ぬかりない。」
「何の話?」
高杉と桂の会話に銀時が首を傾げると、桂が「草餅を美味しくする為にな」と濁して笑った。
「銀時、この草餅は一口で食うのが美味い。だから敢えて小さめに作ってあるそうだ、なあヅラ。」
「うむ、きっと驚きの美味さだぞ!」
高杉と桂の二人が珍しく促すので何か企んでるのかとも思ったが、二人とも本当に一口で食べたので銀時もそうする事にした。
「(…そういや…)」
草餅は昔もよく作って食べた。
蓬を使ったり、時には餡を包んだり、きな粉だったり。
コイツらとも、新八や神楽とも…
「(何度も作ったっけな。)」
ふとそんな事を思い出して懐かしく、銀時は草餅を口に放り込んだ。
「ぶっ!!!!!!!!!」
突然の刺激に銀時は声にならない悲鳴を上げた。
「ブハハハハッ!甘いな銀時!」
「用心がなってねェな。」
「おまっ、こっ…山葵…!」
涙目になりながら茶で堪える銀時に桂だけでなく高杉まで笑っていた。
「湿気た面ァしてたもんでな、テメェ用にヅラに頼んでおいたのさ。」
「お前の入れ知恵か!馬鹿杉!」
「俺は山葵に辛子と七味も混ぜようと言ったんだがジャンケンで負けてしまったのでな。」
残念そうに呟いた桂と銀時の取っ組み合いが間も無く始まったのを、高杉は笑む口元を湯呑みに隠しながら聞いていた。
目は見えないが不思議と其の様子は今の眼にも映るようで。
穏やかな其の顔を見たのは、膝にいる猫ただ一匹だけだった。
おしまい
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