09/21の日記

23:49
まなみ様リクエスト
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地球の存続をかけた騒動から数ヶ月、漸く街も人も国も一段落したらしい。

陽の射す空は青く、眩しい…何処からか微かに吹く風も穏やかだ。

そんな平和を絵にしたような日和に高杉は一人、眉間に皺を少しだけ寄せて万事屋の和室に座っている。

リビングでは一段落ついたらしい街の仲間達が万事屋に度々来ては感謝や労いの声を伝える。

万事屋だけの活躍ではないが、それでも皆が皆を支え合っての平和だ。

それでも白夜叉の力を存分に発揮した銀時の活躍は人々の心に大きく響いた様だ。

「(しかし、)」

高杉は紫煙を静かに吐く。

仲間に慕われるのは良い事だと最初こそ思って聞いていた高杉だが――


『また吉原にも来ておくれよ、月詠も喜ぶしサービスするからさ。』

「(また…?)」

『色んな玩具も揃えとくからね!安くしとくよ!』

「(玩具…)」

『私と兄貴のワカメ酒の仲じゃないですか〜』

「(…。)」

『うちの店にも来てくださいね。あ、でも前みたいに九ちゃんの着物に潜り込んだり胸を掴んだりしたら殺しますよ。』

「(着物に潜り込んで胸を掴んだ?)」


『あぁ銀さんの逞しい腕と熱い胸が忘れられない!』というくの一はともかく…

『また吉原に』『月詠も喜ぶ』『玩具』『ワカメ酒』『着物に潜り込んだ』『胸を掴んだ』


「(銀時ィ…随分じゃねェか。)」

吉原の女達に忍者、や娘、キャバクラの女達の会話内容には聞き捨てならない台詞があり過ぎる。

高杉は煙管を噛んだ。

仲間に慕われるのは良い事だが、慕われるのと度が過ぎるのは違う。



少しして最後に来た長谷川が帰り、銀時は和室を見る。

「悪かったな高す…あれ?」

和室に高杉は居なかった。

窓が開いたままなので窓から帰ったのか。

「待たせ過ぎちまったか…ったく一言くらい言って行けよなぁ。」

高杉に会うのは久しぶりだった。

あの戦いで無線越しに聞いた高杉の声に銀時は少し不安があった、だから繋ぎ止める様に『ガラクタになってねぇだろうな』と何の気にもしてないふりをした。

宇宙と地球…出来るなら直ぐに抱き締めたいのを我慢して。

高杉の仲間達も多くが命を落とした…あの河上万斉も。

しかし高杉は『後ろなんぞ見てられるか、生きてようが死んでようが…俺の背中は奴等に任せてある』と穏やかに口にした。

「久々だったってのに…泊まってけよな馬鹿杉。」


一人呟くと買い出しに行っていた新八が帰ってきた。

「銀さん、ただいま戻りました。」

「おう、ご苦労さん。」

「あの、さっき高杉さんから言伝て頼まれたんですけど…」

「高杉が…?」

「あの、言いにくいんですけどね…『テメェのような浮気者はもう信じられねェ、着物に潜り込むなりワカメ酒なり好きにやれ馬鹿野郎』だそうです…アンタ何やらかしたんですか。」

新八は眼鏡を曇らせたが銀時は開いた口が塞がらない。

「いや違うから!!てか何勘違いしてんだ彼奴!?」

「あと『二丁目に行ってやる、銀時なんか一晩で忘れてやる』って呟いてました。」

「オイィィッ!勘違い拗らせてなんつぅ宣戦布告してんの!」

今の時期は夜が早い。

否、例え昼でも高杉のような奴が一人うろうろしていれば間違いなくベッドインだ。

銀時は新八に任せて慌てて二丁目に向かった。


…………


自棄になって新宿二丁目に来てはみたが、高杉は一番街と変わらないなと辺りを眺めた。

まあ男同士で親しくし易い場所ではあるらしいが、居酒屋、ホストクラブ、銭湯、カラオケ、カフェ、コンビニ、バー、ホテルなど種類は多々あれど。

「(まァ、普通だな…)」

高杉は適当に飲んで帰ろうと周りを見る。

小さなバーがあったので取り敢えず入ってみると西郷ほど威圧感は無いが、同じ様なマスターが『いらっしゃい』と告げた。

中は少し広めで落ち着いていて、テーブルが少しとカウンターがある。

何人か客もいるが、声は小さく静かに楽しんでいるようだ。

高杉は取り敢えずカウンターの端に座る。

椅子は丸椅子ではなく背凭れのある椅子で、高杉は銀時の椅子を思い出した。

只でさえ暫く会えなかったのに、その温もりどころか会話もゆっくり出来ないまま出てきてしまった。

「お兄さん、ご注文はどうします?」

「あァ、そうだな…」

メニューを見て日本酒を頼む。

「お兄さん、日本酒がよく似合うわね。それに和服姿も綺麗。」

「そうかィ…まァ、着流しが一番楽だしな。洋装もしたが、やはり此れが一番良い。」

落ち着いていて、静かな店、マスターも悪くない、日本酒も美味い…高杉は小さく息をついた。

気付かない内に些か肩に力が入っていたらしい。

「…憂い気な感じも素敵、お兄さんみたいな人が一人なんて何かあったの?」

「何かって言えばそうさな…久々に会った奴が知らねェ間に………止めだ、酒が勿体ねェ。」

「そんな時もあるわね…」

「……仲間に慕われんのは良い事だ、万事屋なんてやってんだから…」

小さく呟いた高杉の言葉にマスターは「万事屋ってもしかして銀さん?」と目を丸くした。

「知ってんのか。」

「ええ、銀さんには依頼で御世話になったわ。うちもこういう店でしょ?だから同業の知り合いも一番街にはいるのよ。」

「そうか…」

「でも銀さんにこんな素敵な人が居たなんて知らなかったわ。」


酒が程好く回ってきた頃、高杉は席を立つ事にした。

飲み過ぎでは無いが、頬が少し染まるくらいにはなっている。

「マスター、邪魔したな。」

「あら、帰るの?一人で大丈夫?」

「ガキじゃあるまいし大丈夫だ。」

席を立つ高杉は当に濡れた蝶のような艶っぽさがあった。

ほんのり差した朱、肌蹴た胸元の色香、少し気怠そうな雰囲気は少なからず店内の目を引いた。

しかしそれは高杉を狙うようなものではなく『何で高杉のような男が一人なんだろう』という二丁目ならではの意味だった。

マスターがする心配もそういう意味だが高杉は気付かない。

「お兄さん、お水飲む?少し顔が紅いから。」

「そうだな、頂く。」

グラスの水を飲み、少し頭も冴えてきた。

「世話になったな、マスター。」

「私も楽しかったわ、気を付けてね。」

店から出た高杉は背中を伸ばす。

すっかり夜になっていて、街にはカップルらしい姿も増えていた。

所々に一人でぼんやり立つ男、そんな男に声をかけてホテルに向かう男の姿もちらほら。

そういう場所なんだと自棄で来た筈だが、頭には銀時が浮かぶ。

「(銀時…)」

妙な孤独感と少しの危機感に高杉は早く去ろうと決めた。

自分の様な訳ありそうな男に声をかける輩は居ないと信じたいが、物好きがいるという事を高杉は知っている。

取り敢えず二丁目の街を知らない高杉は、一先ず街を出ようと来た道をうろ覚えに帰ろうとした。

人が増えて夜になった街は些か迷う。

その時、人を避けつつ急いでいた高杉の腕を強く引いた者が居た。

「!?」

そのまま街角に連れられて抱き締められ、高杉は一瞬焦った。

しかし、それは知っている感覚だと気付く。

「この馬鹿、やっと見っけた。」

白い着流し、黒のインナー、微かに甘い…銀時の匂い。

「銀時…」

「ったく…勝手に勘違いして浮気宣言して急に居なくなりやがって…マジで襲われたらどうすんだお前。」

「…何が勘違いだ。知るかよ、テメェが俺が居ない間に…」

言いかけて、高杉は銀時の背中にしっかりと腕を回した。

「高杉…?」

自棄で来てしまったものの、不安だった。

知らない街での孤独感とホテルに消えていく男達の姿…

何人かの人間が自分を吟味するように見ているのも気付いていた。

銀時を忘れるなんてとんでもない、恐くて会いたくて…迎えに来てほしくて仕方なかった。

「(こんな街で…人混みで…)」

銀時は見付けてくれた。

銀時の胸に帰れた事に、こんなにも安堵する。

「高杉?幸せそうにしてるとこ悪いんだけど、続きは其処でな?」

銀時に甘く囁かれ、示された先はホテル。

「俺の事、忘れられちゃ困るからな。」

「…忘れるかよ、馬鹿…」


掠める唇の微かな感覚さえ愛しいのだから。





おしまい




まなみ様リクエスト有り難うございました!




フシビ 拝



☆コメント☆
[まなみ] 09-23 08:38 削除
フシビ様、リクエスト小説ありがとうございます(^ω^)!
銀時が恋しく恋しく、なって彷徨いながら悩む高杉がぎゅっとしたくなるほど可愛いですね!少しほろ酔いの高杉は、破壊力MAXです!銀時も捕まえるときギュッとしたくなる気持ちが伝わってきますね〜!新八の伝言役も面白かったです!
いつも、ありがとうございます(^ω^)!!

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