小説 紐八
□春のお目覚め
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「おはよ、」
銀時は呼び掛ける。
春が来て、冬の名残も去った頃。
いつもの場所のいつもの木、其処から降りてくる高杉を抱き止める。
「おはよう。」
銀時の日溜まりに等しい匂いと温もりに高杉は身を委せながら、微睡んでいた深緑の目を醒ます。
「高杉、」
銀時は懐に閉じ込めるように高杉を抱き締めた。
柔らかい新芽の匂いと、深い樹木が薫る。
「銀時、痛てェよ。」
「んー…ごめん、」
謝って、口付ける。
「高杉が居ると春が来たなって思うよ。」
「昨日も会っただろうに、」
「会えなかった日の方がまだ長い、」
「毎年毎年…相変わらず慣れねぇ奴だな。」
高杉が小さく笑っていると、銀時はコツンと額をくっ付ける。
「仕方ねーだろ…寂しいんだから、」
高杉は目を丸くした後、少し俯いた。
「高杉?どうした?また寝るとか言わねーよな?」
「寝れるか…馬鹿、」
窺う銀時に高杉は少し顔を紅くして、そっと銀時の手を握った。
春のお目覚め。
終