小説 充互

□三本の線香
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冬が訪れ、寒さが増した頃。


普段は子供達が集まる村の片隅の一軒家に、今日は静かな時間が訪れている。


敢えて子供達に訪問しないようにと言ってまで家を閉ざした今日は、松陽の命日である。


『御世話になった大切な方の命日で』と訳を話したかいあって、今日は本当に静かな日だ。


朝起きて毎日線香を点し、祠を普段より殊更丁寧に掃除して少なめに花を供える。


縁側で祠を眺める高杉に、桂は「偶には三味線の一つ弾いてみてはどうだ」と促した。


静かだった空間に三味線の細い音が響く。


其れは桂からすれば随分懐かしい音で、高杉にとっても昔を思い出させるものだ。


「…お前は昔から三味線が上手かった。こうして聴いてみても、やはり上手いものだな。」


「そりゃどうも、」


其の時、高杉は三味線を弾く指を止めてふと笑う。


桂も「来たか」と笑った。


間も無く、微妙な面持ちで小さな花束を携えた銀時が現れた。


「いや、ちょっと来てみただけだから。深い意味は無いからね別に。」


「グダグダ言ってねェでさっさと線香の一つ点してこい。」


「お前が花を買ってくると思って花瓶のスペースは空けておいたぞ。」



「あ…そう…?別にそんなつもりで買ってきた訳じゃ無いんだけどね、偶々買っただけだけど?まあ、飾っとくわ。」


「誤魔化すならもうちょっと上手くなれよ銀時。」


三味線を弾きながら呟いた高杉に銀時は「オメーは黙って三味線弾いてろ」と言い返しつつ、クスクスと笑う桂の頭を叩いておいた。




鮮やかな花に囲まれた三本の線香の煙が、冬の空へと昇っていった。







 

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