小説 集似
□紅の頬と群青の空
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コクコクと喉を鳴らして飲み干された水筒の中身は何だろう。
そんな事を考えながら銀八は高杉の姿を眺めていた。
中の氷がカランと鳴り、涼しげな音を立てる。
高杉のあの唇が、舌が、銀八のものを舐め上げる様をふと思い出して熱が上がる。
「…ふぅ。」
銀八の視線を知る事もないまま、高杉は冷たい喉越しに自然と息をつき、何気なく空を見上げた。
空は屋上周囲を護るフェンスよりも遥かに高く、広く、青い。
この、淡く光が滲んだような群青を見ると五月なんだなと思う。
日に日に夏らしさを滲ませる五月の空を見ながら、やっと高杉は銀八を見た。
「何だよ、見んなスケベ。」
「スケベって、ちょっと妄想してただけだろーが。」
「してたのかよ…。」
「良いだろお前…ねぇ、ソレ俺にもちょうだい。」
銀八に水筒を差し出すと、「間接キスだなぁ」などと言われた。
「ばっ…態々言うんじゃねぇよ!」
「あ、意識しちゃう?」
「…知るか天パ。」
銀八は高杉の耳元に唇を寄せる。
「…帰ったら、間接じゃないキス…沢山しような。」
みるみる内に紅く染まる頬を横目に、銀八は水筒の中身を口にする。
小さくなった氷を口に含んだらしい銀八は「冷たい」と呟いて高杉に水筒を返した。
コク、と銀八の喉元が鳴ったのを高杉は静かに見つめた。
「なあ、高杉。」
銀八はもう一度、高杉の耳元で囁いた。
「今のお前……さっきの俺と同じ顔してるよ、きっと。」
『紅の頬と群青の空』
終わり