小説 充
□気持ち+1
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「よぉ銀八」
朝の廊下で呼ばれた銀八は声に振り返る。
肩に下げた鞄から算盤を覗かせる3年Z組の生徒(不良)、高杉が薄い笑みを浮かべて其処に立っていた。
「おー、ちゃんと登校したか偉い偉い。」
「黙れ腐れ教師。今日はどうしようもなく哀れなテメェを見れる日だからな、チョコは貰えたか?」
ククッと可笑しそうに笑う高杉に銀八はうるせーよ、と言い返した。
「そんなこったろうと思ってコレ、」
勝ち誇ったような笑みを浮かべて高杉が見せたのは幾つかのチラルチョコが入った可愛らしい巾着状の包みだった。
「今日1日で全く貰えなかったら言えよ、そしたらくれてやる。」
「(何コイツ、チラルチョコの詰め合わせとか可愛いチョイスしやがって…)」
銀八は抱き締めたいような衝動を抑えて、ふと考えた。
高杉の事は大好きだ。
正直高杉のチョコなら滅茶苦茶欲しい。
しかし、こんな勝ち誇った高杉の笑みをちょっと崩してみたかったりもする。
悪知恵が働いて、銀八は口を開いた。
「1日貰えなきゃ言え、ねぇ……別に要らねーけど?」
今度は高杉が驚いた。
銀八は身悶えしたいのを抑えて言葉を続けた。
「いや、俺ほら甘いの好きだから健診とかでも結構小言言われんだわ。良い加減鬱陶しいし、ちょっと最近甘いの控えようかなって考えてたんだよね。」
勿論嘘だが銀八は更に続ける。
「それに、俺にも一応プライドはあるし?貰えなきゃ貰えないで、いっそ自分チョコ買って食うから。バレンタイン過ぎると在庫ちょっと安くなるし、だから、オメーのチラルチョコなんぞに頼まなくてもどうとでもなるわけよ。」
「…そうかよ。」
高杉は自分の小さな包みを僅かに見つめた後、ぐしゃりとポケットに突っ込んだ。