小説 充

□涙と金平糖
1ページ/2ページ

来るわけの無い奴を待っている。


そんな気がするのは、気のせいではない。


一人、テレビもつけずに万事屋の個椅子に高杉は腰掛けていた。


外は夕方、町行く人の声が微かに聴こえる。


極普通の、1日の暮れ。


カレンダーは2月14日。


何処ぞの天人が伝えて始まってから、今や誰もが知るバレンタイン。


様々な店は今日の何週間前から其れ用のチョコレート菓子を用意し、店頭に並べる。


今日は其れが最もメインになる日だが、今となっては特に珍しくも何とも無い日だ。


好いた奴に気持ちを伝える。


其れにはしゃぐのは恋人同士か女子供か一部の関心強き男共か。


「…馬鹿らしい…」


一人呟いて、高杉は引き出しに入れていた薄い箱を取り出して眺める。


水色の紙に紅い紐で包装された其は、昨年の今日に散々騒いで高杉にチョコレートをねだったホスト用だ。


昨年、当然の用に訪れた奴にチョコなど知るかと伝えた結果、散々喚き、ねだり、頼み倒された。


その教訓が今日に生きている。


「馬鹿らしい…」



もう一度呟いて高杉は其を元の引き出しに直した。


そして、其処に入ったもう一つの小さな箱を見る。


此方は白い用紙に茶色の紐。


簡単に来る筈の無い何処ぞの誰か。



自分でも不思議な程に、何故か買ってしまった。


「……」


少しだけ見つめて、高杉は静かに引き出しを閉めた。



明日辺りに自分で食べる事になる。



今年も、きっと。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ