小説 緑
□普段歩く道も久しぶりだと解らない。
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(道に迷った。)
高杉は足を止めて空を見上げる。
暫くの間、江戸での警戒警備を逃れる為に京都に居た。
表で活動している万斉から警戒警備解除の知らせを受け、江戸に来たのは昨晩の事。
偵察がてら、船を下りて路地を行ったものの…見事に迷ってしまった。
「全く解らねェな…。」
しかし止まっていても状況は同じ、電話もなければどうする事も出来ない。
狭い道を抜けると一台の屋台があった。
「…道を聞くか…。」
指名手配ではあるが、笠は被っている。
騒ぐならば斬れば良い。
その時、
「おい、貴様。」
背後から聴こえた声に僅か、視線を向ける。
居たのは変な化物と女装したヅラだった。
「高杉、こんな処で何をしている。良からぬ事を企んではおるまいな。」
「クク…暫く京にいたもんでな。久しぶりの江戸を散歩してただけだ。」
平静を装いつつ、現れた桂に珍しく感謝を覚える。
「全く暢気なものだ。こんな処をうろつきおって…この辺は表を幾分離れている、散歩は構わんが気を付けろ。では……………何だ?」
立ち去ろうとする桂の着物を思わず引っ張ってしまった。
―――――――
「全く貴様は…妙な場所をうろついて居たと思えばやはりか。迷ったのなら迷ったと言わんか馬鹿者が…。」
「…少し離れていると解らねェもんだな、まさかこの歳で迷うとは思わなかったぜ…。」
前を歩く桂について行くと桂が止まった。
「まぁ、そんな事もあるさ。お前にしては珍しいがな…とりあえず此処に入るぞ。」
桂が促す其処は家…というのだろうか。
小さな古い宿屋だった。
二階に上げられ桂を待つ。
「余所の気配は…ねェな…。」
年の為に仕組まれ人数が居ないか探るが、居ないようだった。
「そんなに警戒せずとも大丈夫さ。しかしその要心さには感心するがな…一応、銀時に連絡しておいた。半刻せぬうちに迎えに来るだろう。」
「銀時が…来るのか。」
「何だ、まずかったか?」
「いや、しかし…良いのかい。滅多にない俺の不測事態を助ける様な事して…」
「俺は貴様と違って年中戦闘体勢ではない。ところで…ちょっと良いか?」
「…?」
言うや否や。
桂は高杉に近付くと着物の袂を掴み、広げた。