小説 杉
□壊の温もり
1ページ/2ページ
真っ赤な炎が一面を染め上げた
燃え盛る幕府官僚の屋敷が夜の闇に映えて、高杉は眼を細めた。
腐りきった幕府官僚の屋敷も、こうやって火に朽ちるところを見れば…
眩しくて美しい。
辺りに火事を知らせる鐘が鳴り響くのを耳にする。
「晋助さま、片付きました!」
また子は高杉へ声をかける、そして高杉の刀に眼をやる。
高杉が片手に握った刀には反射して映る火色とは別に、さっきまで人の中を流れていたであろう血色の赤が滴っていた。
「晋助さま、お怪我は無いッスか?」
「ああ。来島、船に武市を待たせてる。直ぐに出れるよう手配しろ。」
「はい!」
また子は短く返事をするとその場を離れた。
高杉は一面の炎を見つめる。
かつて燃やされた師の家
過去は全て燃え尽きて、この手からすり抜けていった。
師を殺めた奴等には其れ以上の苦しみを、
奪った奴等には同じ火をもって、
裏切り者には
俺自身が処刑執行人として
「ただ壊す…」
高杉の呟きは燃え落ちる屋敷の音と鳴り響く鐘の音に消えた。
「晋助、行こう」
熱風が吹き荒れる中、最後を努めた万斉が声をかける。
高杉は小さく笑う。
壊した後は獣が少し静かになる
満たされない感情が
僅かにだけ満たされて
その破壊の温もりが
恋しくて
恋しくて
「俺も大概…ぶっ飛んでやがる…」
火事を後に高杉は去った
おわり
あとがき→