小説 杉

□壊の温もり
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真っ赤な炎が一面を染め上げた


燃え盛る幕府官僚の屋敷が夜の闇に映えて、高杉は眼を細めた。


腐りきった幕府官僚の屋敷も、こうやって火に朽ちるところを見れば…


眩しくて美しい。



辺りに火事を知らせる鐘が鳴り響くのを耳にする。


「晋助さま、片付きました!」


また子は高杉へ声をかける、そして高杉の刀に眼をやる。


高杉が片手に握った刀には反射して映る火色とは別に、さっきまで人の中を流れていたであろう血色の赤が滴っていた。



「晋助さま、お怪我は無いッスか?」


「ああ。来島、船に武市を待たせてる。直ぐに出れるよう手配しろ。」



「はい!」


また子は短く返事をするとその場を離れた。



高杉は一面の炎を見つめる。



かつて燃やされた師の家

過去は全て燃え尽きて、この手からすり抜けていった。



師を殺めた奴等には其れ以上の苦しみを、



奪った奴等には同じ火をもって、



裏切り者には



俺自身が処刑執行人として


「ただ壊す…」



高杉の呟きは燃え落ちる屋敷の音と鳴り響く鐘の音に消えた。



「晋助、行こう」


熱風が吹き荒れる中、最後を努めた万斉が声をかける。



高杉は小さく笑う。



壊した後は獣が少し静かになる


満たされない感情が


僅かにだけ満たされて


その破壊の温もりが


恋しくて


恋しくて




「俺も大概…ぶっ飛んでやがる…」



火事を後に高杉は去った




おわり


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