小説 十三

□向日葵の記憶、今此処に
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うろ覚えだった道を歩いていくと、今まで来もしなかった場所なのに…


進む足取りは次第に確かな記憶の道を行く。


バラバラに芽吹いた木々から木漏れ日が射し、揺れる。


草木が囁く細い道を行き、立ち止まる。


「…」


あの日…


銀時と種を植えた場所に、向日葵は無かった。


「…フン…」


何を思って来たのか、定かでないまま。


気紛れに、こんな場所までやって来た自分を思わず鼻で笑う。


ザッと風が乱れた時…


「何、笑ってんの」と、振り向かずとも判る気配に高杉は前を見たまま呟く。


「とんだ嫌がらせをしやがる、神様とやらは。」


高杉の言葉に銀時は「オメーが嫌われるような事ばっかするからだろ」と言い返した。


「…」



高杉は笠を深くして踵を返す。


足元に見える黒い靴や着物の裾模様は、やはり銀時の其れだった。


「テメェこそこんな場所に何の…」


バサッと一瞬、視界に何かがぶつかった。


「んな深々被ってると危ねーぞ。」


「テメェ…」


高杉は銀時を睨むように、顔を上げる。


一瞬高杉の隻眼が驚いた色を滲ませた。


「…」


「…」


銀時が差し出したのは向日葵の小さな花束だった。












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