小説 集似
□水無月の、
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三郎は高杉の指についていた米粒を一つ口にした。
「俺の前でくらい、坂田さんの事は忘れて下さいね。」
そう言ってニコリと笑うと、高杉の顔に若干の紅がさした。
「ふふっ…可愛いッスね、高杉さん。」
「…煩せェ、」
照れ隠しに俯いて黙々と握り飯を食べる高杉を三郎は、やはり小さく笑いながら眺めていた。
「因みに…汁粉とぜんざい、どっちが好きですか?」
「ぜんざい。」
キッパリと高杉は言い切った。
「物凄い、言い切りましたね。」
「甘くねェやつな、つぶ餡に餅入れて。」
「高杉さん、意外と甘味が好きだったりします?」
「物によるがな、団子とか…ぜんざい、葛餅、水羊羹くらいなら食うぜ。」
「あー水羊羹は美味いッスね。夏になったら食いてぇなぁ…」
「じゃあ、食いに行くか?」
「良いですね、約束ですよ。奢って下さいね!」
他愛ない約束をした。
―――――――
「………生き残れって、言ったのにな。」
一つになった眼が、そっと伏せられる。
深く被った編み笠の影が
其処に重なり、影を落とす。
夏が近付く、水無月の頃。
「…一雨、降るか…」
終
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