小説 集似
□オッサンの希望
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「ふーん。阿武兎みたいなオッサンになると笑顔より辛気臭いのを選ぶんだね。参考にもならないけど、気が向いたら覚えておくよ。」
「はいはい、序でに苦労人の名称も付け加えとけよ。苦労が恐くて第七師団副艦長なんかやってられるかってんだ。」
「ねえ阿武兎、暇だよ。何か面白い事無い?無いなら阿武兎の表情改造固定計画とか」
「暇なら書類片付けんの手伝いやがりなさいよ団長。はぁあ…」
「阿武兎、溜め息ばっかだね。俺と殺し合いでもする?スッキリするよ?」
「スッキリするのはアンタだろ。血生臭いのは嫌なの、片付け大変だし。本当にそういうの好きだな団長様は。」
「まぁね。俺は何でもやる方が好きだからね。あ…でも気持ち良い事ならされる方が好きだよ。」
「………え?」
「なに?何か変な事言った?」
「いや…団長なら何にしたってやる方が良いのかと思ってたんだが。」
「だって、気持ち良い事に限ってはされる方が断然良いじゃない。」
「団長の場合、やり手である事が気持ち良い事に繋がりそう…あれ?何の話だっけ?」
「知らないよ、殺るか殺られるかなら殺る方が良いけど、気持ち良い事はするよりされたいなぁ…俺は。」
恐らく本人は何も考えていない、此は確かに本音なんだろう。
しかし阿武兎は、神威の口から受け身的な言葉が出た事自体が何となく不思議な感じだった。
『したい』じゃなく『されたい』と。
阿武兎にささやかな希望が生まれた。
終わり