小説 集似

□オッサンの希望
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「なあ、団長。ちと聞いてみたいんだがね。」


「なに?」


「…期限が近い書類を片付けるのと、期限の解らない書類を片付けるのと…どっちが良いもんかね?」


「あはは、そんなの簡単だよ。阿武兎が両方しちゃえば良いじゃない。」


見た目だけは素晴らしい笑顔を浮かべて、神威は答えた。


「ハァーァ…ホント嫌になるぜコンチクショー…ちょっとは気にしてくれよ。」


「阿武兎、文句ばっかり言ってると幸せが逃げるんだってさ。」


「だったら俺ァ文句と溜め息のダブルパンチさ、誰かさんのせいで。」


「阿武兎は少しは笑顔の練習すると良いよ、俺みたいにさ。なんなら四六時中笑っていられるように顔を固定しようか。」


「遠慮しとくぜ、オッサンには笑顔より哀愁の方がしっくりくるんだ。特に苦労してるオッサンには――何してんだ団長。」


ふと見ればカメラのシャッターを押した神威が笑っている。


「今の阿武兎の最後の顔を撮っておこうと思ってさ。顔を固定されたらもう今の顔は見られないからね。」


「いや…顔の固定とか要らないから、んな事しなくたってアンタがちゃんと自分の事をしてくれりゃあ文句も溜め息も減るんですけどね。」


「えー…久しぶりに楽しくなると思ったのに…そうだ、何なら高杉にでも相談したら?」


「何を?」


「作り笑いの仕方とか。」


「だから、何でそうなんの?団長がちゃんとしてくれたら良い話さ。」


「高杉なら阿武兎と年も近いし、シリアスでも上手く笑ってるじゃない。」


「あー…多分その辺には触れちゃいけない気がするけどね。」


阿武兎は幾つか集めた書類を束ね、一先ず机に置いた。


「我が侭だなぁ、阿武兎は。」


「どこが我が侭?これ迄も此れからも俺ァ、この顔と溜め息と生きていくって決めてんだスットコドッコイ。」
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