その他

K×K=R
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彼女はいつも己を見詰めていた。
目が合えば慌てて伏せて決まって頬を赤く染める。

いつも控えめな態度で微笑む姿が印象的な少女――☆。


親しいわけでもなく、まったく関わりがないわけでもない。


つまりは「友達」。







「じゃあな宮田!」


「……あぁ」



ある日、彼が放課後一人下駄箱から靴を取り出して帰ろうとしていた時。

「宮田君っ…!」

注意していなければ簡単に聞き逃してしまいそうな声量で呼び止められ、手紙を渡された。受け取ると頬を紅く染め、笑顔を浮かべてじゃあね、と一言去っていった。

それは所謂ラブレターだったのだと思う。内容は知らない。

彼はそれを一文字も読むことが出来なかった。何故なら不運にも読む前に母に見つかり、執拗な程までに細かく千切られてしまったから。


だから彼女には返事を返せなかったし返さなかった。

万が一内容が告白でない可能性もあったから。

でもその後友人から振ったのか、と訊かれたのでやはりあれはそうだったかと確信できたが、それでも返事は返さなかった。

どうせ自分には振る他ないと思った彼は、何か言って傷つけるよりも別の奴を好きになって立ち直ってもらった方がいいと判断した。

なのにどうしてか、抱く感情は切ない。


「……」



それが恋心であったのだと気づくのはまたもう少し後の話。



――――――――――




時は移り変わって高校三年の夏。クラス内での話は文化祭の話題で持ちきりだった。日程は夏休みを明けてすぐ。受験生でもあるため、皆準備は早いに越したことはない。


リーダー各が教卓の前で仕切る。


「文化祭の劇の『彼女』と『彼氏』役を決めたいと思います」




出来ることなら付き合っているカップルがのろけにのろけて馬鹿騒ぎを起こしてほしかったのだが、不運にも今年は一組もクラス内に存在しなかったのだった。





「……」


全く無関心な宮田は欠伸を一つ咬まして相変わらず裏方でのんびり過ごせそうだとほぼ上の空。


立候補が出る見込みは一切ないだろうと判断したリーダー各は推薦で何人か挙げてそこから決めようと提案した。


誰の名前を挙げるか教室がざわめきだす。




「…私は☆がいいと思うな」


そしてふと、彼の耳が拾ったその名前


「あ、確かに。☆可愛いから適役だよね!!」

あの微笑みを浮かべる彼女に視線が移る。

『私演技できないし可愛くないから出来ないよ』

「大丈夫!!放送部の白熱サポートがあるから!!声は出さなくても☆は動きを覚えるだけでいいんだよ!!」

『…でも相手が嫌がるよ』


☆もまた宮田と同じく優秀であり、偶然進学した高校も一緒だった。物静かで淑やか、根本的なものは何も変わっていない。変わったと言えば、身長と顔つきが少し大人っぽくなったこと。


「宮田!」

突如話し掛けられ体が小さく跳ねた。しかし怪訝な顔の友人は何回も名前を呼んでいたらしい。


「珍しいじゃん」

「…何が?」

「いや、興味ありげに見てたからさ。話加わってくれば?」

「……別に、俺は裏方やりたいからいいよ」


宮田はさらっと本音を言ったつもりだった。

しかし何を思ったか…友人はにんまりと口を歪ませる。


「…なんだよ?」


「…言ってやろうか?」

「……は?」



「俺宮田がいいと思うよっ!!」


「オイッ!!馬鹿っ…!!」




一瞬クラスがシン…と静まり返る。





「宮田君何気イケメンだもんね」
「シナリオ担当が言うんじゃもう決まりでしょっ!!」
「☆はどうなの?」





目まぐるしい勢いで事が進んでいく。





―――俺はやらない



ただその一言が言えない。

大勢を前にして話すのを得意としない上、普段あまり感情を口にしないせいか発言しなければならないこの場に限って舌が上手く回らない。



『彼が…嫌じゃないなら…』

「!」


途切れ途切れに聞こえた言葉に伏せていた顔を上げる。


「はいっ、決まり!!ご協力ありがとうございました。二人には後で台本渡すから練習しといてね」


驚いた宮田の視線に気づいた彼女が微笑む。
もちろん宮田にそんな余裕はない。


過去の出来事を知るのは二人だけ。


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