その他

死ぬほど絶望した後は死ぬほど甘美なる時間を
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日頃の条件反射で僕は咄嗟に電柱の陰に隠れてしまった。



「可愛いーっ!」

「あの噂マジだったのかよ!?」

「カネダと付き合うとか、金が入ってくる以外利益なくね?もう俺と付き合えば?」

「うわないわー…だったら俺と付き合えよ」



僕達はいつもの場所で待ち合わせのはずだった。今日も二人で帰ろうって。

薄暗い細い路地。人はほぼ通らないに等しい。汚れてて汚いけど二人で細やかな幸せを過ごすには十分なデートコース。

なのにどうして…



「ねぇー…」

『やめて…』

「はっ、強気だな。けどカネダは来ねぇよ。多分その辺にいるだろうけどな」

『そうですか』

「でもそれじゃぁ☆ちゃん寂しいでしょ?だからさ、出てきてもらおうと思ってさっ…!」

『!?、嫌っ…!!』


「っ!!」


あろうことか奴等は彼女を囲んで襲い始めた。抱き着いたりペタペタ触ったり。嫌、やめてと彼女がどんなに叫ぼうと、抵抗は全て力で捩じ伏せる。

「やっぱ強がったところで女に変わりはねえな」

「ムカつくなぁ彼女とか…カネダのくせによ」

「カネダー!俺☆ちゃんとキスしちゃうからーっ!!」

『ぃっ!やっ…!!やめてっ!!』


一人が彼女を押さえつけて浜里が無理矢理上を向かせて顎を掴む。

醜い獣達は浮かれた様子でそれを見守る。



「……止めろ」




二人の顔の距離は徐々に近づいていって…



「止めろっ…!!」


そして気づけば僕は知らないうちに飛び出していて。


「…ほーら、来た」

浜里の睨みに肩がビクリと跳ねる。

顔に喰らう拳の痛みを僕はよく知ってる。
数発、何十発となれば尚更。
情けなくカタカタと膝が小刻みに震える。


「でも残念だったな」
『ンゥっ…!!』

「あっ…!!」

目の前で二人の唇が重なる。
耳障りなリップ音を残して、さも愉しげに浜里は口角を吊り上げた。

「…もう少し早く来ればよかったのによ?」


「―――ッ!!」


僕に力がないことくらい自覚はしてる。いつも殴られっぱなしで胸ぐらを掴まれれば向こうはやりたい放題。
それはもはや日常の一部と化してしまっていて、僕以外にも少なくはなかった。

だから諦めてた。
力を求めることはしなかった。
だっていざとなればタミヤ君が来てくれたもの。


「やめろっ…!!触るなっ!!」


「カネダ君こわーい、で、どうするのコイツ」

「あ?適当に殴っとけよ」

「はいはい…いいですね浜里君は」



でもコイツらはタミヤ君がいない時をうまく狙ってくるようになったり、挙げ句の果ては☆まで…


「舌でも噛んでみろよ?女だからって容赦しねぇからな」

『りくっ…!りっ、ムッ…!!』


また浜里が強引にキスを始める。

痛い…身体中が痛い。長い前髪を掴まれて膝立ちにされる。鳩尾を蹴られて息が出来ない。殴られて…蹴られて…

『…りくっ!りくっ…!!』


でも何より辛いのはただ非力な僕の名を呼び助けを求めて泣きじゃくる☆を見なきゃいけないことだった。


――力が欲しい

これほどまで強く切に願ったことはない。

痛みと悔しさから涙が滲み出てきて、どうすることも出来ない自分は実に惨めだった。

不快な粘着性のある音が嫌でも耳に入るのはきっと浜里が舌を絡めているから。


嫌だ…そんなの絶対嫌だ…


「☆っ…」


抵抗も虚しく力で捩じ伏せられて蹂躙される彼女の名を呼びながら僕は永遠と殴られ続けた。



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