その他
□K×K=R
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【俺と付き合ってくださいっ…!!】
夏休みに入り演技の練習が始まった。適当にやると女子があれこれ面倒なので、不本意ながら真面目に演じる。今回は台詞係と動きの確認の練習でもあるため、別の男子が台詞を横で読み上げる。
「宮田様になってんな」
「かっこいい!!大丈夫!!」
「…どうも」
【いいよ、一緒に帰ろ?】
「!」
教室の隅で☆が演じるは一緒に帰れないかと誘われたシーン。
声がまた☆によく合う。
自然と、クラス中の視線が宮田から☆に移り変わった。
「☆可愛いー…」
「あの顔ほしいよね」
「……」
本番では自分が彼女の隣に立つのだ。手を取って、告白して、抱き締めて、キスの振りをする。
皮肉にも彼は振ったことでより彼女が気になっていった。
この先発展しない関係は確定してしまったのに思いは募ってゆくばかり。
肺は常に甘ったるい虚しさに満たされていて、いつもなら己すら欺ける感情消去もこればっかりはどうにもならなくて。
それなのにまさか高校最後の文化祭で、しかも因りによって恋人を演じることになるなんて誰が思っただろう。
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「…あ」
宮田が間の抜けた声を出した場所は廊下。練習が終わり帰ろうとしていたが台本を教室に忘れていたのを思い出した。既に内容は記憶していたため必ず必要というわけではなかったが、念のため取りに戻ることにした。
戻れば何やら教室内がやたら騒がしい。まだ練習に残っている人がいるようだ。
「え゛ーーーっ!?!?」
「ッ!?」
宮田がドアに手を掛けようとした瞬間、爆発したように教室内の連中が声を揃えて叫んだ。
思わず開けるのに怯む。本当に何事だと彼は溜め息を吐いて改めてドアに手を掛ける。
「☆って宮田君に振られてたのっ!?」
「―――っ!?」
叫ばれた内容に、彼は手を掛けたまま硬直した。
「この間友達になった子が偶然☆の友達で、文化祭の話したら言われてさ。しかも最近また失敗したのかな…?どうしたら好きな人を忘れられるか相談されたんだってよ」
ちなみに宮田君から返事は返してもらえなかったみたい…
そう加えると次々と挙げられる同情の声。反応が良かったのが嬉しかったのだろう、しかもね…と本人が聞いているのを知らずありもしない話を連ねる。
…俺だって返せるものなら返したかった。
知ったような口で話し、さらに一部話を捏ち上げた話し手に歯の根を鳴らす。
すると一人が突然声をあらげてがやを制して発言した。
「えっ、でも待って待って!!私本人から聞いたんだけどっ…」
――――…☆、宮田君のこと好きらしいよ?
クリアに鼓膜へ響いた一言。
頭の中はパニック状態。
中で話されている内容は自然と耳に入らなくなっていった。
到底教室に入れる空気でもなく、宮田は呆然とその場に立ち尽くす。
『宮田君…?』
「っ!!!?」
一瞬心臓が停まったかのような錯覚に陥る。噂をすればなんとやら…。一体どれほどそうしていたかは知らないが、見れば☆が立っている。
「…どうか、したんですか?」
『うん、私演技下手だから個人的に練習しようかなって』
手に握り締められている台本。
彼女はいたって平然、ここで今の話を聞いてしまった様子はない。
よかったと安堵したのも束の間…
『入ってもいい?』
彼女がドアに手を掛けるのを反射的に遮る。☆はその行動に戸惑いの表情を宮田に向けた。
彼女を中に入れるべきではない。
無駄に傷つけられる可能性もあれば、最悪、そこに宮田君もいたよなんて何の悪気なしに話されてしまうかもしれない。
いつまでも退かない宮田に対し、☆は口を開こうとした。
『「一緒に練習しませんか?」
『えっ?』
絶妙なタイミングで宮田は彼女の発言に被せる。
「まだ一緒に合わせたことないなと思って…☆さんさえよければどうですか?」
ここから遠ざける為とはいえ強引な展開となってしまったが、それでも中の連中がいきなり出てきてばったりだけはなんとしても避けたかった。
『……そうだね。うん、お願いします。じゃあ教室で…』
「生徒会が使ってるようなので別の場所でやりましょう」
『あ、そうだったんだ…っ!』
疑う事を知らない☆に感謝し宮田は彼女を連れ出す。
確か屋上が開いていたはずだ…
開いていなかったらまた別の場所を探そう。
階段の折り返し地点の窓から注ぐ夕暮れ時の陽射しを浴びて、二人は屋上を目指すのだった。