SHORT DREAM

□それまでの"さよなら"
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今日やっと点滴や薬から解放された私は、病院の屋上に来ていた。


「…みのり」


『悠真…』


そこで風に当たっていると、悠真が来た。

私の幼なじみで、イタリア代表の悠真。

ホントは私もサッカー界に認められ、ライセンスをもらい、イタリア代表として試合に出るはず"だった"。

でも昨年癌が発見され、サッカー界から姿を消すことになってしまった。


サッカーが大好きなのに。



「…最近体調が悪いんだろ?休まないと…」


『…サッカーやりたいの。悠真やみんなとサッカーやりたいんだよ…』


私は譫言のように呟いた。

サッカーが、やりたい…病院から出たいんだよ…


そんな私に、悠真は言った。



「みのり…治ったらできるから、ね?俺だっていくらでも付き合うから」


『でも…』


「ほら。今は癌を治すことに専念しないと。体調管理も練習のうちだろ?」


そんなわけ、ない。

日に日に体調が悪くなって、毎日点滴されて…なかなか体が動かない。

状態が日に日に悪化してるのに、良くなるとは思えない。

それに、今日点滴が外された。

飲む薬も減ってる。

その癖体調は悪化する一方。

もうダメなんだと、もう長くないんだと、嫌でもわかる。

もうきっと、一切体が動かなくなって、ベッドから出れなくなる。

…悠真は優しいね。

もう先が長くない私に付きっきりで…ずっとそばにいてくれて。

ごめんね。


『ごめん…悠真だってサッカーやりたいよね…変な「…違う」…?』


私はそう微笑んで言った。

でも途中、悠真が私の声を遮った。

その声は悲しげだった。



「違う…俺はみのりが大切なんだ…サッカーができないことより、みのりがいなくなるほうが何倍も嫌だ…」


悠真は歯を食い縛りながら言った。

悲しげな悠真。

そんな悠真に胸が締め付けられた。

私は苦笑して言った。


『嘘なんかつかないでいいよ。もうわかってる…もう病院から出られない体になってること…知ってる…悠真が私を何より大切に思ってくれてること…気付いてたよ…』


そう言って笑った。
私、うまく笑えてるかな。


『…だから。




"ありがとう"。そして"ごめんね"』



「…!!みのりっ!!」


これで、いいんだ。


私は屋上を飛び出した。


このままじゃ悠真は、きっと私のために時間を無駄にする。


悠真には夢がある。


私なんかのために、時間を無駄にしちゃだめ。


だから、悠真に冷たく当たろうとした。


…でも、無理だよ。


悠真が好きだから。


だからせめて。


心配かけないようにしなきゃ。
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