過去作品2
□噛みつく
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「お前なんて愛してないよ」
神威はそう目の前の女に吐き捨てた。大抵の女なら泣きながらこの場を去るか、いきなり怒ってくるか、自分の不甲斐ないところを問いただすに違いない。
「あら、そう?」
―…また
「…」
「なに、私何かした?なんで殺気を出してるのよ。失礼するわ、全く」
神威は眉を潜めた。眉を潜めただけで何も言わず作業を続ける目の前の女を見続けた。先程自分が言った言葉を真に受けず無視したのは、一応彼女の分類、らしい。分類なだけでそんな空気になったことは一度もない。神威は今度は優しい言葉をかけてみた。
「やっぱり嘘。愛してる」
「あら、今度はどうしたのよ」
作業を中断して女は神威の方に初めて目を向けた。その表情は少し照れているようにも見えた。神威は「別に」と言い捨てると、今度は少し頬を緩ませた。
「本当に、自由奔放な人ね」
そう女が言えば神威は「誉め言葉として受け取っとくよ」と嬉しそうに口の端を緩めながら言った。そうして神威は立ち上がり、書類を整理する女のうなじに鼻をすりよせた。
「ああ、やっぱり良い匂いだね」
「そう?なんだか今日の神威、いつもの倍甘えん坊みたい」
女はくすくすと喉をならせば、神威は眉をハの字にした。なんとも言えない気持ちに、神威は酔いしれるように今度は喉の方へ唇を寄せた。
「いつも通りだよ」
女のか細い喉に歯を突き立てた。