過去作品2
□悲しくなるのだろう
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「まだ諦めないつもり?」
ボタボタ、ボタボタ、ある一定の速度で地面へと滴り落ちる赤い雫が、その暗く湿った地面に鮮明な赤い水溜まりを作っていく。空気に触れた赤い雫は正直鉄臭い、なんだ血じゃないか。部屋に広がり行く鉄臭さ故か、はたまた目の前の私にナイフを頬に静かに滑らせている男のせいか、私は不愉快な気持ちになった。
「いけない理由なんてないわ」
「いけないよ、だって俺が納得してないから」
事故満足な男、正直池.袋で一番会いたくない男、この臨也に私は拉致られたも同然の立場に私は佇むようにいた。臨也はどうやら私に好意がある、らしい。らしい、と言った確信がないからである。彼は常に人好きをアピールしている。だから私に向けられる好意は、つまり私を人好きと一緒の中に入っているからと考えたからである。
しかし、私は臨也が嫌いである。それなりにイケメンでもある彼に迫られれば天に召される気分の女子が多いのであろう。しかし、私は臨也より特別な感情を抱く異性がいた。もちろん、恋仲でもある。それを知っていての行動だ、今すぐぶん殴りたい。
「あなたが納得してどうなるのよ」
「君が言ったらちゃんと納得する、それからシズちゃんを殺す」
「無理な冗談は止めてちょうだい、静雄は強いわ」
「そのシズちゃんを殺す」
相変わらず言葉をたんたんと読むような行動に対し、私は臨也の持っていたナイフに目をやった。本来なら叩き落とせる。否、叩き落とさなくては私の命が危うい。しかし、どうしてか体が痺れていつもの本調子に戻れない。臨也に会った時点で帰るべきだったわ、あーあ、私の馬鹿。
「…ナイフを下ろして」
「俺が嫌だって言うこと分かってて聞いてんの、君は」
「あなたのことよ、予測通りの回答が返ってきたことに私は呆れたわ」
「じゃあシズちゃんのことも忘れてよ」
「…何度も言わせないで」
「俺のこといっぱい愛してよ、ねえ」
どうすればいい?
感情移入もしない声。そうね、解ってるわ。臨也は本当はただ静雄を困らせたい、私という駒を使って。呆れる、まるで子供じゃない。痺れの次は眠たくなってきた、どうやら催眠効果のある薬みたい。いつ飲まされたかって?さあ、気が付いたら体が痺れていたからね。私は重くなった瞼を無理矢理こじ開け、臨也の顔を見た。ぼやける視界で、私は言葉を吐き捨てた。
「臨也、あなたのこと嫌いよ」
「……奇遇だね、俺も君のそんな一面大嫌いだよ」
次目が覚めたときには私は全裸で布団に転がされてるか、それともまだ何もしないか、臨也の善意により静雄のところに返してもらえるか。…三つ目はないわね。
君が嫌いだと吐き付けたのに、どうして君の悲しい顔を見たら私も悲しくなるのだろう
(切られた頬が痛み出す)