過去作品2

□おまえがだいじ
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「平和島、」

「ああ゛?」

「…人が話しかけただけでその態度か」

 あっ、静雄は口にくわえていた煙草を地面に落としてしまった。開いた口が塞がらない、まさにこの状況だ。静雄は目の前まで仁王立ちをして腕を組んでいる女性を見て、あまりの衝撃にさあ、と一瞬だけ青ざめた。と、同時に顔が少しだけ熱がこもった。

「…すまねえ」

「…仕方ない、今回だけは見逃そう」

 彼女の話いわく、丁度彼女が働いているお店が休憩になったらしく、たまたま仕入れを行っていたら静雄を見つけた、と腐れ縁ならではの運命があった。
 静雄は地面に落ちた煙草を足で踏みつけ、ぐしゃっと少しだけ力を込めて煙草の火を消した。

「…」

「…」

「…」

「…なんで急に大人しくなったんだよ、平和島」

「っせえよ」

 こつん、静雄はいつも臨也を見つけ次第ゴミ箱を投げつけたり、自販機を投げ付けたり、正直回りの人が怯えるような行動ばかりしているが、彼女の前だったらどうも本調子に行かない静雄でもあった。彼女に弱い、といっても過言ではなかった。
色々な人がいて、危ない人もいるなか、彼女は唯一の普通といってもよいくらい池/袋で何も害がなかった。

「あ、」

「どうしたんだよ」

 携帯のバイブが彼女のポケットで不規則に響いていた。それも長い。マナーモードにしていた彼女の携帯が、着信を知らせているようだ。彼女は携帯をポケットから取り出し、静雄に一旦背を向けてその電話の相手に応じた。

「…?」

 どうも嫌な顔つきとも言えない、緩みきった柔らかい顔つきに静雄は釘つけになった。相手が誰なのか、ちょっと静雄の好奇心が駆り出された。彼女がため息をつきながら電話を切ったのを合図に、静雄は彼女に声をかけた。

「誰からなんだ」

「…厄介な相手だよ、全く、一体臨也はどこで私の携帯番号を知ったんだ…」

 ぴくり、静雄の耳が静かに動いた。聞き覚えのある苛立ちを呼び覚ます名前。これでなんとなくではあったが、静雄は先ほどの彼女の顔つきの理由が解った気がした。
 彼女が友のように慕っている相手、それだけで静雄は気づくべきであった。帝人たちは学校、セルティは話せない、新羅はまずない、そう順次に考えれば答えは一つであったに違いない。静雄はとりあえず、冷静な対応をした。

「なんで電話があったんだ」

「あー…お店で待ってる、って」

 ぶちぶちぶち、静雄の首もとに血管が浮き上がってきた。まるで彼氏のような台詞、しかも池/袋に臨也がいて彼女を呼び出した、静雄の機嫌は最高潮にまで達していた。

「…俺も行く」

「…はっ?」

「俺も行くっつってんだ、文句はねえだろ」

「いや、え、は、え!?」

 明らかに予想外の言葉に彼女は驚きを隠せれなかった。正直彼女に言わずにお店まで走っていって破壊活動を開始すると考えていたため、彼女は静雄の頭を触り顔を近づけた。

「平和島、お前熱あるんじゃないのか!?」

「なっ」

 こちらも予想外の展開に再び開いた口が塞がらない、そんな最初の状況みたいな顔になった。彼女だからこそ「壊すなよ」と一言言うかと思っていたため、静雄は顔を近づけた彼女を見て顔を真っ赤にした。端から見ればただの恋人にも見えなくはなかった。
 
「あ、いや…ごめん。ちょっとテンパっちゃったから…」

「いや、大丈夫だ…」

 顔がまだ真っ赤。静雄は横を向いて口元を押さえた。自然と目と鼻の先まで接近していた彼女を思い出せば、再び顔が真っ赤になった。静雄は顔を左右に小刻みに振り、落ち着いた素振りを見せて彼女に向き合った。


「なんで平和島がいきなり行くなんて私に言うなんてさ…」

「っせえ」

「可愛いところもあるんだな」

「…」


(なんて意地でも言わねえ!)



 

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