過去作品2
□死なないで
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火の海に紛れて立つ鬼がいた。それも微かに唇の端を吊り上げ、苦しそうにうめき声を発しながら血を吐き捨てる、それはそれは恐ろしい鬼だった。
鬼の背中に刺さる十数本の槍が、痛々しくて重視などできなかった。
黒くて、優しくて、真っ直ぐな瞳をしている鬼は、最後の最後に私に微笑み、
い
き
ろ
と、虫の息の唇で言葉をなぞった。
そしてまた辛そうに笑った。
・・・たさん
今、今言わなきゃ
・・・・・・・・・・じ・・たさ・・・・
嫌だ、死なないでよ
・・・・・・・・じかた・・・・・ん
ねぇ、お願いだから
ひ・・・かたさん・・・
死なないで・・・・
「土方さん!!!」
やっと呼べた名前を聞いて、鬼は・・・土方さんは静かに笑った。
「くるみ・・・・近藤さんを・・・新撰組を・・・!!」
「分かってる。分かってるよ土方さん・・・!」
今にも顔が歪んで泣き出しそうになった。すると土方さんは子供を宥める様に、頭を撫でた。
髪がぐしゃぐしゃになるのが分かっても、土方さんの唇から溢れ出る血に、己の無力感ばかりが積み上がった。
「泣くなって・・・・俺はくるみの・・・笑っ、た顔が・・・見てェんだ、よ。」
「・・・・ッッ!!」
頭を撫でる手を両手で握りしめ、その手に涙が伝った。土方さんは霞む視界のせいか、目が虚ろになっていた。
「くるみ・・・・・・」
「・・・・?」
「また、な」
再び静かに笑みを零した。
お願い、死なないで
動かない唇は
言葉すら綴れなかった