過去作品2
□ゲームオーバー音
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カチカチ、カチカチ
右、左と交互に手を動かしながら、目の前の画面と前を、クロトは交互に見た。
前にいるのは、静かに本を読むオルガでも、大ボリュームで音楽を聴くシャニでもない。二人はクロトを一人部屋に置いていき、どこかに立ち去ってしまった。
となると目の前にいるのは?
答えはクロトの想い人のくるみだ。
くるみはクロトの視線に気付くなり、目線を合わせて笑った。
「クロト、」
「あ、何だよ・・・・」
クロトは視線に気付かないように、ゲームの画面に集中した。しかし、胸の高鳴りは耳障りなばかりだった。
「明日ね、またあの二機と戦うんでしょ?」
「もちろんッ!あんな機体に負けたかねェし。シャニとオルガのヤロウにも借りがあるしな。」
「・・・・・また、苦しい思いをするの?」
クロトはボタンを押すのを一瞬ためらい、またゲームを再開した。クロトも何も喋らなく、しばらく沈黙が流れた。
クロトにはその沈黙が、痛々しく感じれたが、何故だが喋る気分にもなれなかった。
「私、」
「?」
「クロトに辛い思いさせたくないよ。」
クロトはくるみの言葉の意味を、ゲームをしながら頭をフル回転させた。
何を言えばくるみは喜ぶんだよ
何をやればくるみは泣かないんだよ
知らない事の多いクロトは、ゲームの画面から目線を外さず、口を開いた。
「僕は、くるみを護るためなら、辛くても大丈夫だ。」
「・・・・死なないでね」
「僕が死ぬはずないだろ!」
ゲームオーバー音
(でも僕等は死ぬ)
(抗えないんだよ、僕等は)
(抗っても無意味化されちまうんだよ)