過去作品2

□相席
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 ムジカは喫茶店に入って、真っ先に席を探した。レジの近くにいた女性店員が、「いらっしゃいませ、」と口をもごもごと動かしながら、下に俯いていた。
 きっと新入りなんだろう、ムジカは新品同然の服を着た女性が、「お席は相席でよろしいでしょうか?」と聞いてきたので、ムジカは「ああ」と答えた。

 連れていかれた席は、良く言えば外の景色が拝められる、悪く言えば外からまる見えな四人席だった。相席の相手は、持ち運び式のパソコンを机の上に開いて置いて、長い髪を緩く留めている女性、ただ一人であった。
 ムジカのタイプの子、ではあったが、正直苦手なタイプにも当てはまった。しかし、文句も言ってられなかった。席に座れるだけ幸せだ、ムジカは意を決して声をかけてみた。

「隣、いいか?」

「ええ、もちろん」
 
 顔も上げず、さらりと言った女性に、さすがのムジカも何も言えず、無言で向かい側の席に座った。新入りの女性に、「コーヒー」とムジカが言うと、向かい側の女性が「私はダージリンをお願い」と、これまた表情一つ変えず言った。

「なあ、あんた名前は?」

「まずはそちらからどうぞ」

「あっ、そうだな。俺はムジカ、よろしくな」

「くるみ、」

 よろしくって言うほどじゃないわ、と冷たくいい放たれたムジカだが、逆に胸の底から意地でも顔を上げさせたい、と思い始め、またダメ元でくるみに話しかけてみた。

「くるみ、はいつも此所に来てるのか?」

「どこで働いてんだ?」

「今、パソコンでなにしてんだ?」

 全部無視。ことごとくくるみに無視されたムジカは、心の底からへこんだ。しばらく机の上に額をくっ付けたまま、どうやれば答えてもらえるのか一生懸命考えた。
 「おまたせしました」とぎこちない動きで机の上に、コーヒーとダージリンティーを置く音に、ムジカは気付かなかったふりをして、そのまま机の上に額をくっ付けていた。

「……早く飲まないと冷めるわよ、ムジカさん」

 凛としたその声に、ムジカはバッ、と顔を上げた。そこにはすでにパソコンを閉じて、ダージリンティーを持っている、くるみの姿であった。ぽかんっ、とだらしなく口を開けていたムジカは、「変な顔」とくるみの声により覚醒した。

「……何、初対面の人をじろじろ見て。何も珍しくないでしょ?」

「あ、ああ…」

 小さく微笑んで、ダージリンを口にするくるみを見て、ムジカは顔中一帯に熱が集結させてしまった。「まあ、美味しい」と口ずさむくるみを見ながら、ムジカは少し冷めてしまったコーヒーを、口一杯に含んだ。

「(味、わかんねーな…)」

 ムジカはコーヒーの味が分からなくなったことに、ムジカは苦笑いをした。
 
 






 

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