1日1ハロウィン!
□士郎
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「士郎!セイバーさん!今日はハロウィンだよ!」
元気良くるう子が障子を叩き割らん勢いで開ける。俺の前で優雅にお茶を飲んでいたセイバーは、聞き慣れない単語に小首を傾げていた。
「るう子、ハロウィンとは一体…」
「お菓子を無条件に貰える素敵デーだよ!」
「なんと!」
(ちょっと違う気もするが)セイバーは“お菓子を貰える”ということに嬉しそうに目を輝かせた。うーん、るう子も大概だが、セイバーも子どもっぽいな。
るう子はセイバーから俺に向き直り、魔法の言葉を口にした。
「トリックオアトリート!」
るう子の先ほどの言葉を借りれば、これは“無条件でお菓子をあげなければならない”魔法の言葉だ。
さて、問題はここからだ。
冷蔵庫の中に何かあっただろうか、と記憶の井戸を掘り返すと……何もない、に至った。茶菓子も“とりあえずお菓子を食べられる”という発想のセイバーに食べられた。四面楚歌とはまさしくこれだな。
「悪い、るう子。手持ち無沙汰でだな」
「じゃあ悪戯だね!」
間髪入れずにるう子が嬉々として声を上げる。まさかこいつ…分かってて言ったな!
「……はあ、お手柔らかに頼むよ」
「了解!」
キュポンとこの場に不似合いの音がする。るう子の手にマジックが……まじか。
「大丈夫!水性だから落ちるって!」
そういう問題じゃない気が……。
兎にも角にも、とるう子は俺のほっぺたに何か書き出した。字画的に“肉”…じゃないか。なにやらほっとした気分でいると、るう子は「できた!」と可愛らしい声を上げ、慌ただしく部屋を出ていった。
「あ、おい!」
「じゃあね、士郎!セイバーさん!」
なに書いたのか聞きたかったんだが……、二文字なのは分かったが、文字までは分からなかった。セイバーに聞こうかとセイバーに向き直ると、セイバーは柔らかく微笑んだままお茶を口に含んでいた。
「士郎、洗面所に行ってみてください」
「は?」
「その言葉は、あなたの為の言葉なんですから」
セイバーに言われるまま立ち上がり、洗面所に向かう。俺の為の言葉?一体全体なんなんだろう。
「…先にるう子に告白されるなど、士郎も大概抜けてますね」
セイバーの呟きに気づかぬまま、俺は居間を後にした。