過去作品
□ぐるぐるマフラー
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本格的に冬が始まり12月。池の水面はうっすらと氷が張り、白い息が微かに靄の中でゆらゆらと口から吐き出た。ふと、前をみれば見覚えのある姿が目に入り、くるみはぶんぶんと手を大きく振りながら声をかける。
「ナタク!」
「………なんだ」
くるみの声に不機嫌そうに振り返るナタク。そしてしばらくして返ってきた返事を合図に、くるみは寒さで少し動きづらい足に無理矢理力を入れ、おぼつかない足取りでナタクの傍らまで近寄った。
やっと隣に立てた、そう思いちらりとナタクを横目で見るとじっとくるみの方を見ていた。くるみは何故、と思いナタクがこちらを見ている理由について考えた。
「あー…分かった!寒いから不機嫌なんでしょ?」
「いや…くるみのその格好に驚いただけだ」
確かにやり過ぎかな、とくるみは心の中で小さく呟いた。くるみの格好はロングマフラーをぐるぐると何重にも巻いて、かなり分厚い手袋を手にはめ、少しふわふわする白いコートを着て、耳当てまでもしていた。
「そうかな。普通じゃない?」
「普通じゃないだろ、見てるこっちが暑くなる」
「ナタクの格好は、見てるだけで寒くなるんだよ」
寒さでほんのり赤みを帯びた頬をぷくぅと膨らませ、くるみはナタクの格好を指摘した。防寒着など一切着用しない制服のみの格好。しかも時々腕捲りをして登校するという強者だ。
そんなくるみの言葉に、ナタクはふんっ、と小さく鼻を鳴らした。
「こんなので寒いのか、くるみは」
「いやいやっ、普通は寒いよ!あんた絶対クラスに一人はいる年がら年中半袖半ズボンタイプだよ」
「…先に行く」
「あ、ちょっ!」
なんとも言えない複雑な表情をしたナタクは身を反転させずかずかと足を進ませた。先にいこうとするナタクに対し、くるみは慌ててナタクの背中を追いかけた。
やっと横に立てた。くるみは息を切らしながらナタクのちらりと見て、しばらく口をへの字にしたままやっぱり、と小さく呟いた。