過去作品

□願わくば、
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――…蝋燭の光が静かに揺らめき、風が横をするりと避けるように過ぎ去った。心地よさと同時に過るなんともいえない緊張感が二人の背筋に走った。

「御慕い申しております、殷効様」

「くるみ…僕も…」

 空気がそうさせた。どこからともなく求めた唇、二人の男女は…殷効とくるみはひしりと抱き締め合いながら確かめるように愛の言葉を囁いた。唇を離せば名残惜しそうに銀の糸。ぷつりと銀の糸が切れるのを確かめ合えば再び力強く抱き締めあった。

「くるみ、良い匂いだな」

「ふふ、殷効様からも同じ匂いが匂われますよ」

「…くるみの方が良い匂いだ」

 子供の頃のようなあどけなさ。しかしどこか大人に成長した証であるように力強くなった殷効の肉体。華奢な体つきになったくるみ。子供の頃のように互いが禁忌を犯していることを気付かないように、しかし気づいたような素振りに、くるみも殷効も満足していた。
 
 気づかなければどれだけよかったことか、知らなければどれほど喜ばしいことか、察しなければどれほどまでに温かかったことか、幾度となく感じた感情に殷効は押し潰されそうになった。その度に浮かんだくるみの自らを呼ぶ表情に声、殷効は気付いた。ああ、

―愛、してしまったんだ

 愛、愛愛愛愛愛。殷効の脳内に響き渡る僅かな一部の周波にのせられて気づいてしまった事柄。
 愛愛愛愛愛愛してしまったんだ。鳴り止まないシグナルのように、壊れてしまった機械仕掛けのように、殷効はくるみに会うたびくるみに惹かれてしまったのだ。

「くるみ、」

「はい、殷効様」

「僕から――絶対離れないで」

 唖然とした。くるみは一瞬だけ驚いたように目を見開かせ、そして柔らかい笑顔へとなった。言葉を選ぶつもりもなかったくるみは、直ぐ返答した。

「もちろんでございますとも」


―たとえそれが禁忌だとしても

―こそくな罠だとしても

―…愛してしまったことには代わり映えない

 殷効は城内が騒ぎ出したことに気付いたが、いつも通り気付かないふりをした。


Prayer
願わくはこの時間を永遠にしてほしい
の時間を共に歩んで行きた
笑顔
を見せられたときに
決めた
事柄だった




 

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