過去作品

□愛してる
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「ねぇ、太公望ったら」

「………ぐぅ」

「……」

 寝てやがる、くるみは太公望の服を引っ張る力を弱めて、太公望の服から手を引っ込め、地面にその手をついた。ぐいっ、身を前に乗り出せば居眠り中の太公望の顔が一段と近くに見えた。くるみはじいっと太公望の顔を見ていた。

「…、(太公望っていつも私の我が儘を聞いてくれるよね)」

 不思議と太公望はくるみの我が儘を拒もうともせず、むしろ「わかった」の一点張りが多かった。断るときの大方の理由は居眠り、それぐらいで大抵は我が儘に付き合った。
 くるみは自然とそれが当たり前のような気もしていた、しかし、太公望はしばらくしたらこの崑崙山から、封神計画のために出なくてはいけなかった。ただそれだけ。しかし、くるみはそんなことも露知らず、間抜け面で眠る太公望のほっぺをつついた。

「…消えないでね、」

 自然と、そう、くるみが自然と口を開いたときに出た言葉はそれだった。意味を探ろうにも頭の中で、この言葉を出した意味もあやふやだった。ただどこか、くるみは胸の中で分かっていた、そんな気がした。


 
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